掌の中の小鳥

掌の中の小鳥

2021年7月24日

176

「掌の中の小鳥」加納朋子 創元推理文庫

 

夫に加納朋子ブームが来ている。となると、こちらにも余波が及んでくる。旅先で読本がなければ、当然彼の予備本に手を出すことになるわけで。
 
誕生日記念に那須の板室温泉というところへ行った。アートの宿とかいうらしく、面白い庭があり、廊下には不思議なアート作品があり、さらには、とある現代美術作家の作品が収蔵されている倉庫美術館をオーナーのレクチャー付きで見学できる。ある作品の「三角」という題名の意味を読み取れるか否かで、才能があるかないかを判断できる、と言われ、見事に私は才能ナシを言い渡された。まあ、当たってるけど。
 
近来まれに見る雪の少なさではあるが、寒い庭には囲炉裏があって薪が音を立てて燃えており、鉄瓶で沸かしたお湯で入れたお茶は驚くほど甘く美味しかった。このお茶のためにここに来たんだな、と思うほどであった。
 
あとはなんにもない宿だったので、お湯に浸かりビールを飲んだあとは、ひたすら本を読んだ。というわけで、持っていった本が尽きて、夫の持っていったこの本にも手を出したというわけ。加納朋子の古い作品(1995年刊)で、いわゆる日常のミステリ。人が死なない、普通の生活の中の謎なので、こういう作品は安心して読めて嬉しい。短編連作で、同じような人が登場するのもわかりやすい。彼女はこういう作品を書きながら腕を磨いていったんだな、としみじみ思った。
 
ゆったりした時間の中で、少しずつ読むのに向いているような本だった。

2020/2/4