昔日の客

昔日の客

2021年7月24日

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「昔日の客」 関口良雄 夏葉社

図書館にリクエストした本なのだけれど、一体どこでこの本を知ったのか、読み終えてもわからなかった。表紙写真をアマゾンで探してレビューを読んだら思い出した。沢木耕太郎がどこかに書いていたのだ。

元々は、昭和五十三年に出された古い本である。昨年、それが復刻されたのだ。作者は古本屋の店主。古い本と、本の作者と、その本の前の持ち主への静かな愛情が感じられて、温かな気持ちになってくるよい本だ。

作者は、元の本が出版される前の年に亡くなった。本が出ることを楽しみにしていたが、体が回復したら、まだ書きたい原稿がある、推敲もしたい、といっている内に亡くなってしまったのだそうだ。ご家族のあとがきが二つ収められていて、その文章からも、作者のお人柄が伝わってくる。

古本屋のお客さんは、本を買いに来ると言うよりは、作者の話を聞くのを楽しみにしているような人が多かったという。古本屋は、長い間探していた本に巡りあったり、思いがけずに懐かしい本を見かけたり、誰かと何かを話したくなるような場所でもある。作者のような店主のいる古本屋が側にあったなら、どんなに嬉しいだろうと私は夢想してしまう。

2012/4/21