星の王子さま

星の王子さま

2021年7月24日

「星の王子さま」サン・テグジュペリ作 倉橋由美子訳

とある外部的事情から、六年生に「星の王子さま」を読み聞かせることになりました。学校を使った任意参加の行事で、「星の王子さま」を扱うため、PRする必要があるのです。

そもそも、私は「星の王子さま」が子供向けの本だとは思っていません。どんなに高学年向けのネタに困っても、「星の王子さま」が頭に思い浮かんだことはありませんでした。「え?これを読むの?」と戸惑ったことも事実です。

ですが、やらねばならないのなら、最善を尽くすしかありません。どうせ朝の10分間です。せいぜいが、最初の二章を読むくらいが関の山です。非常に絵に頼る導入部です。挿絵を拡大コピーして、紙芝居のようにそれを見せながら、読んでみることにしました。読んだことのある方なら誰でも覚えがあるでしょう。最初の、象を飲んだうわばみの外側と中味の絵、それにヒツジの絵をいくつかと、ヒツジの箱の絵。

これが意外に受けました。絵の話になった時に、さっと持ち上げて見せるので、思わず視線が動くってのもあるんでしょう。皆が集中する感覚があって、少なくとも10分間は、実に熱心に聞いてくれました。どんな図書館にも、どんな本屋にも、きっと置いてある本なので続きを知りたい人は、自分で読んでね、で〆ました。一人くらいは、探して読んでくれるかもしれません。

今回読んだのは、倉橋由美子さんの新訳です。もちろん私は内藤濯さんの文章に長いこと慣れ親しんできました。美しい文章だと思います。ですが、今を生きる子たちには、少し難しすぎるかもしれません。実際、読んでみて、倉橋さんの訳は、すっきりとして理解し易いものでした。「うわばみ」が、「大蛇」になってしまったのは、旧友の変わり果てた姿に出会ってしまったような複雑な気持ちでしたが。

私が初めて「星の王子さま」と出会ったのは、それこそ小三くらいだったかと思います。題名に惹かれて読んだものの、「なんじゃこりゃ」でございました。あまりに分からないのが悔しくて、その後、一年おきくらいには読み返していたように思います。段々に意味はわかったものの、「恥ずかしいのを忘れるために酒を飲む、というのも、酒を飲んでることが恥ずかしいから」みたいな話は「ふざけとるんか!」とつっこみたくなりましたし、最後のページの「この世でもっとも美しい風景」は、ただ二本の線と、星のへたくそな(!)絵にしか見えませんでした。黙って頷けるようになったのは、もっともっと大人になってからでした。

恋をしている時は、王子様と会えると思うと嬉しくなるきつねの気持ちを思い出しましたし、淋しくて泣きたい時に、砂漠の中の美しい井戸を思い浮かべたりもしました。薔薇の花のように、すねるふりをしたことさえ、あります!若かったのね。

読み返すごとに、年を経るごとに、この本は、いろいろな表情を見せてくれます。今回読み返した時は、あらら、いい年した親父が若い薔薇に翻弄されて・・みたいな感慨すら抱いているおばさんと化したわたくしに出会ってしまいました。そうです、この本は、子供向けではない。オトナが何度も何度も読み返しながら、何かを見つけていくような本なのです。

それでも、子供時代にこの本に出会って「ナンじゃこりゃ」と思うのも、決して悪いことではありません。そういう経験を経て、今こんな風に私は読んでいる、と思えることが、何がしかの人生の喜びにはなるのかもしれません。ですから、子どもに読み聞かせるのも、悪い事じゃないでしょう。興味を持って、続きを読んで、「変なの」から始まっても、全然構わないのですから。

2007/4/18