月のぶどう

月のぶどう

2021年7月24日

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「月のぶどう」寺地はるな ポプラ社

「水を縫う」で知って、他の作品も読んでみたいと思った作家。繊細で細やかな感情を描くのが上手な人だ。

ワイナリーの社長である母が亡くなり、残された双子の兄弟が助け合いながらワイナリーを続けていく物語。

ワイナリーが好きだ。ルミエールとか、ココファームとか、お気に入りのワイナリーがいくつかあって、何度か訪ねている。工場見学もする、試飲もする。大抵の場合、ワインに合う料理を出すレストランも併設されているので、そこで食事をするのも好きだ。ワイン作りは、果実を育て、絞り、発酵させ、瓶に詰めるまで大事に心を込めて育てる良い仕事だとつくづく思う。自然に対する愛情がなければできない仕事だ。

その工程を追いながら、双子の兄弟の成長が描かれる。周囲の人間の苦しみや優しさ、暖かさも繊細に描かれる。人はみんなそれぞれにコンプレックスがあって、自分を認めることができなくて、持っていないものばかり欲しがっている。けれど、自分が持っているものに気づき、受け入れ、認めることができると、生きるのが楽になる。そんな気持ちを育てるのは、自分ではない、他者の目だ。愛情のこもった目が、それを教えてくれる。人と関わることで、自分を発見し、受け入れられるようになる。そういう物語だ。

静かだけれど、大事なことがきちんと書かれている。信頼できる作家だと思った。

2021/3/6