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「死にたい老人」 木谷恭介 幻冬舎新書
もう十分生きたから、83歳になったら、断食して、死ぬ、と決めた老人の、断食の記録。三回挑戦して失敗、四回目開始前に断念している。
死にたい理由は幾つも書いてある。もともとミステリ作家でもある作者は、良い作品を書きたいと思っても、その体力がないのが悔しい、という。それから、妻とは別れたし、愛人関係だった女性ともうまく行かなくなった。一人息子に介護で迷惑を掛けたくない。A級人間の官僚たちが支配するこの国で、C級の国民である自分ができる最後の決闘状が、断食である、とも。そして、老人人口が増えるこの国で、寿命に従順であるべきなのに、いたずらに長生きするのは間違っている、という思想もあるらしい。
あくまでも断食で死にたいのであって、胃潰瘍や心臓の疾患に対しては、とても用心深い。そして、そういう他の疾患が悪化すると、断食は断念して、病院で治療を受けている。即身成仏を目指しているのだろう。
周囲の人が、自殺幇助や保護責任者遺棄致死罪に問われないために、こっそり死ななければならない。これもまた、高いハードルである。ずっとご飯を食べないでふらふらしている老人を見たら、何とかしてあげるのは、人の道というものだろう。
読んでいて、なんだか虚しくなってくる。死ななくてもいいじゃない、と思う。せっかく生きているんだもの。これから世の中は老人だらけになっていくだろうけれど、そういう国になって、なんとかやっていけばいいじゃないの。
この人は、私の父とほぼ同い年だった。父は、生きる気まんまんだ。それでよかった、と私は思った。穏やかに静かに楽しく生きていて欲しい、父には。
2012/2/18