物語ること、生きること

物語ること、生きること

2021年7月24日

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「物語ること、生きること」上橋菜穂子 構成・文 瀧晴巳 講談社文庫

 

夫から回ってきた本。夫とは、上橋菜穂子さんが国際アンデルセン賞を受賞された時の記念講演を一緒に聞きに行っている。その時に聞いたお話をさらに詳しく、丁寧に広げて書かれているような本であった。
 
上橋さんが物語作家になるまでの道筋。毎日のように色々なお話をしてくれた父方のおばあちゃん、化石を探したり、自然の中で遊びまわることのできた野尻湖の母方のおばあちゃんの家。そして、絵を描くという自分の一番好きなことを職業にしている父、天然で明るい母。たくさんの漫画を読み、物語を読み、まっすぐに育っていった菜穂子さんの半生。高校生の時には「グリーン・ノウ」シリーズのボストン夫人に会いに英国まで行って、作家になりたいと口走ったら、きっとなれると手を優しく包み込みながら言ってもらえたという。
 
上橋さんは、自分の夢をしっかりと抱えて、文化人類学と物語作家の両方を見事に自分の仕事にしていった。下手に現実的にならずに、夢を諦めずにまっすぐ進めたのは、好きなことをして家族を養っている父の姿を見ていたからかもしれない、という記述にはっとした。私達はすぐにおとなになりたがって、上手に世間を渡っていくことを子どもに教えたがるし、実際にそうしちゃっているのだが、大変でも頑張れよ!!と背中を押してやれる大人になれたら素敵なのかも、と思う。でも、それって大変なんだよなあ・・・・。
 
上橋さんは、拗ねたり、ひがんだり、うまく立ちまわったりしないで、大変でも真正面から何でもぶつかって頑張ってきたんだな、と思う。その姿勢がちゃんと物語に表れている。すぐに拗ねたりひがんだりうまいことやりたくなる私は大反省だわ。

2016/6/13