ムーミン谷の彗星

ムーミン谷の彗星

2021年7月24日

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「ムーミン谷の彗星」トーベ・ヤンソン 講談社

「わたしのマトカ」以来、フィンランドが妙に懐かしく慕わしく思え、ムーミンを読み返すに至った。ムーミンというと、アニメの可愛らしいキャラクターを思い出す人が多かろうが、私はあのアニメをほぼ見たことがない。私にとってムーミンとは静かでちょっとおどろおどろしい、冷たい風の吹くムーミン谷のイメージだ。原作は、不可思議で哲学的だったりもする。という思いはあるのだが、詳細は実は全然覚えていないのだ。で、読み返したくなった。

「ムーミン谷の彗星」は、本来の第一巻である。かつては何故か「たのしいムーミン一家」が第一巻としてムーミンシリーズが刊行されていたが、出された順番としてはこちらが先である。というわけで、本来の順番に従って読んでみたわけだ。

彗星が襲ってくるらしいというので、ムーミンママはムーミンを天文台に送り出す。お弁当やら着るものやらは周到に用意するのに、川を下って行く以外に何の手立ても道筋もわからない割に、ムーミンママはなんにも心配していない。我が子を信頼しているとも言えるし、単なる脳天気ともいう。なんか思い出してきたぞ。この何とも言えない雑な自由さに、子どもの頃の私は、羨ましさと苛立ちと不安を同時に覚えていたものだ。管理と干渉と保護に満たされた自分の生活を振り返って、ムーミンって・・・いや、トロルだからか、なんて考えてたものだっけ。案の定、ムーミンはひどい目にも合うし、それから、あの素敵なスナフキンとも出会うのだが。あんまりきちんと説明はされないまま、気がつけば自然に読者はムーミン谷の中に入りこんでいる。

トーベ・ヤンソンのとんでもない冒険心っぷりは「島暮らしの記録」で知っていたが、それがちゃんと物語にも表れている、と改めて思った。

2016/7/17