花の名前

「おんなのひとが、花の名前なんかを知っているのは、良いものだよ」というのは、いったい何という本で誰がしゃべった台詞なのでしょうか。言葉だけ、なぜだか覚えています。

花は好きですが、名前はほとんど知りません。花の好きなおちびに名前を聞かれては「きいろいはな」「いっぱい花びら花」などとごまかして、叱られます。

私のお棺には、タンポポをいっぱい敷き詰めてもらうことにしてありますので、春に死なないと家族に迷惑です。・・と言ったら、口の悪い友人が「うちの庭には冬でも咲いてるからいつでも取りに来て。」と親切にも言ってくれました。

宝塚市に住んでいるとき、豪邸の石垣に、濃いピンク色の丸い小さな花が群生しているのをよく見かけました。雑草と言えば雑草ですが、あえて抜かずに取っておきたい様な可憐な花です。名前もわからず、幼稚園の行き帰りに、おちびと「ピンクのちっちゃいかわいいお花」などと呼んでいたら、ある日、新聞にその花の写真が載っていました。「ヒメツルソバ」っていうんですって。ヒメツルソバは、今の家の近くの図書館にも群生していて、眺めるのが楽しみです。

ピアノのレッスンに、バスと電車を乗り継いで一時間弱かけて通っています。そこまで力を入れて習っているわけじゃないんですが、頑固者のおちびの気性をちゃんとわかって、楽しく教えてくださる先生は、この人しかいないと思えるような、良い先生です。先生のお宅のそばの大きな道路脇に、花屋さんがあります。信号待ちの間、その花屋さんを覗くのが楽しみです。うまいこと青ですぐに渡れても、ラッキーなのかアンラッキーなのか、ちょっと迷うくらい、楽しみにしています。

その花屋さんに、先日、ひときわ華やかなきれいな花がありました。わあ、きれい、なんていう花だろう、と、おちびと二人で、挿してある名札を覗き込んだら「税込300円」と書いてありました。以来、あの花は、我が家じゃ「税込300円」です。

・・なんて話をしながら、道を歩いていたら、郵便局の脇に、白いきれいな花がいくつも咲いた鉢がおいてありました。この花なら、知っています。「宇野の愛人」です。結婚したてのころ、私の実家にこの花が咲いていました。ちょうど、宇野首相が愛人問題で揺れていたころです。(年がばれますね。)白い花の風情が、日陰におかれそうで、でも、負けないようで、きれいなんだけど、はかなそうで、でも、どこか強そうで、なんとも宇野首相の愛人に似ている、と(たぶん、その方が着ている着物の色にも近かったのだと思います)実家じゃ「宇野の愛人」で通ってました。正式名称は、ついに知りません。

私が五、六歳のころ、ジュンという犬を飼っていました。赤ん坊のときに母親と引き離されて連れてこられたジュンは、いつもクンクンとさびしそうに鳴いていました。なぜか、庭に一輪咲いているピンクのすーっとした花のそばに座り込むと、落ち着く様子でした。それで、その花は「ジュンのお母さん」と呼ばれました。どうやら、それは、「サフランモドキ」だったようです。

そんなこんなで、いまだに花の名前を私はろくに知りません。それにしても、「税込300円」はきれいな花でした。電車とバス、持って帰るのはなかなか大変そうですが、来週、残っていたら、買って来ちゃおうかしら。

2008/11/5