進化の法則は北極のサメが知っていた

進化の法則は北極のサメが知っていた

2021年7月24日

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「進化の法則は北極のサメが知っていた」渡辺祐基 河出新書

 

山奥の秘湯といわれる温泉に行って、そこから二時間半で行けるという湿原、沼にトレッキングしたら三時間半かかった。歳だなあ。ベテラン風の登山者にどんどん追い抜かれ、ある人には「随分軽装ですね」なんて苦笑交じりにいわれてしまった。素人が行っちゃいけない場所だったんだろうか。そう言えば、帰途で水が足りなくなって、喉乾いたもんな。そんなわけで、帰宅後3日経つのにまだ筋肉痛である。
 
そんな旅のお供に連れて行ったのが、この本。カナダの北極圏にニシオンデンザメを探しに行ったり、南極にアデリーペンギンの観察に行ったり、グレートバリアリーフにイタチザメの実験をしに行ったり、バイカル湖にアザラシを見に行ったりする話なので、まあ、この旅に多少、連動するっちゃするが、スケールがちっちゃすぎますわな、私。自分的にはかなりの大運動量だったんだが。
 
筆者は新進気鋭の動物生態学者だ。研究や実験は、失敗したり、成功したりなんだが、根底に、知りたい、わかりたい、解明したいという情熱が溢れているのが文章から伝わってくる。研究者ってこうじゃなくちゃね。
 
サメを追いかけたりペンギンを調べたりって、その動物そのものを知りたい、ってことなのかと思っていたら、それだけじゃなくて。様々な動物の生態を知ることで、生物そのもの、すべての生物に関わる謎を解明しようということなのだな。ここでは、代謝量と体重との関係性を、ジェームス・ブラウンという、なんだかミュージシャンみたいな名前の学者の説をもとに、明らかにしようという試みが行われている。人間もカンパチもゾウリムシも、すべての生物の代謝量は体重と体温というただ二つの要素によって説明できる!というのだ。また、体の大きい生物ほど成長に時間がかかり、世代交代に時間がかかる。ミジンコからシロナガズクジラまでのデータを調査すると、生物の世代時間は体重の四分の一乗に比例して増える。そして、代謝量は体重の四分の三乗に比例する・・・。
 
いやはや、数式や物理学の公式が登場すると、とたんに読む速度が下がり、理解も乏しくなっていく私であるが、とにかく、すべての生物を網羅するある種の法則がある、ということを筆者は世界中を旅して回りながら、調べているのである。その思い、情熱が、この本からもちゃんと染み出していて、私の貧困な理系興味をちゃんと刺激してくれるのである。
 
たまにこういう本も読むと、意外なくらい、元気でるよね、と気がついた。それにしても、ああ、まだ足が痛い。

2019/8/27