食いつめもののブルース

食いつめもののブルース

2021年7月24日

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「食いつめもののブルース」山田泰司 日経BP社

 

中国には「農民工」と呼ばれる人たちがいる。農村や地方都市では難しい「現金を稼ぐ」ために大都市に出稼ぎにやってきた人たちである。彼らは故郷で食い詰めて大都市にやってきて、肉体労働、廃品回収などに従事する。農民工の数は2016年時点で二億八千万人以上。中国人の五人に一人の割合だ。その75%は中卒以下の学歴である。彼らは,爆買いにも反日にも無縁な中国人である。
 
作者は、中国で働きながらそういった農民工と仲良くなり、今まで知られていなかったその実態を明らかにしている。大都市は、流れ込んでくる農民工を支えきれなくなり、切り捨て、排除しようとし始めている。だが、故郷に帰っても、生活は成り立たない。そんな彼らを大都市の住民は見ようともしない。まるでないものであるかのように取り扱う。そして、差別する。たまたま大都市に生まれ育っただけで、運よく大金が転がり込んでくるような生活をしている大都市出身者と、どんなに働いてもわずかの現金しか得られない農民工の格差は驚くほど大きい。
 
戦前の日本も、農村部と都市部の格差は大きかった。徴兵された軍隊でインテリはいじめの対象となったというが、農村で厳しい労働に耐えてもなお、貧困から脱することのできなかった農村部の次男坊以下が、都市部の甘やかされた高学歴のお坊ちゃま相手に鬱憤を晴らすということは、そりゃあっただろうなあとどこかでは納得してしまう部分がある。戦後、日本は少なくとも努力すればみんな豊かになれるという前提が作られ(それもお題目に過ぎなくなりつつあるが)、そういった鬱憤は表向き解消されてきた。が、中国ではそういう格差が産む怒りや妬みが静かに蓄積されて行っているのだなあ、と思わずにはいられない。
 
このままいくと、また革命みたいなことが起きるんじゃないかって読んでて思ったね、と夫が言う。確かに、農村部と都市部の格差、農民の抑圧とその不満を何らかの形で解消しないと、中国という国は立ち行かなくなるのだろう。そのために、例えば日本へ不満をぶつけるみたいなことはやってほしくないけどね。そんなんじゃなくて、もっと農村部が尊重され、格差がなくなり、ちゃんと学校にも行けて、現金収入も得られるようにしていかなくちゃね。中国って大きすぎて、人も多すぎて、そういうことが大変なんだよなあ。毛沢東が、「人民は、死ねば死ぬほどいいではないか」みたいなことを言っていたことを思い出す。もう、人が多すぎちゃって面倒だから少し減らせよって為政者は思うんだろうなあ。恐ろしいけれど。
 
中国に長く滞在し、学校にも通い、働きもしている著者の目はリアルで、地に足の着いた内容であった。興味深い本であった。

2018/9/12