アスペルガー症候群

アスペルガー症候群

120 岡田尊司 幻冬舎新書

アスペルガー症候群については、過去に何冊が読んでいる。以前にも書いたが、亡くなった父はおそらくアスペルガー症候群だったのではないかと私は考えている。一方的に子を支配しながら、決して子の気持ちを知ろうとはせず、話し合いというものは成立せず、ただただ自分こそが正しいのだと信じ切っていた父。ある意味では非常に純粋でまじめだった彼との関係性の困難は、アスペルガー症候群という概念によって非常にわかりやすく理解できる。

この本には、アスペルガー症候群という概念がどのように出来上がったのか、それはどんな特徴があり、どのように接したらいいのかなどが丁寧に書かれている。また、この症候群のマイナス部分だけではなく、例えばビル・ゲイツ、本居宣長、キルケゴール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ジョージ・ルーカス、ヒッチコックなどの人物例も挙げて、彼らがどのようにその障害を越え、特性を生かして業績を成し遂げたのかも示唆されている。

父が亡くなってから、私は父との関係性を子供時代からたどって洗い直すという作業を行ってきたように思う。「ように思う」というのは、意識的にそれをやったわけではなかったからだ。日々の様々な場面で、いきなり子ども時代のある日の出来事が浮かび上がり、あれば何だったのだろうと考えることが起き続け、そこから逃れることができなかった。それが結果的に親子関係を洗い直す作業となったのだ。

おそらく多くの人と同じように、私の父への気持ちは複雑である。圧倒的な支配者ではあったが、間違いなく私という存在を生み出し、日々の糧や住まいや衣類、学業を与えてくれたことに感謝の念がある。とてもまじめで正直な人だったことも知っている。だが、その一方で私を苦しめる存在でもあった。死という出来事があってはじめて、私は彼を客観的に、自分と切り離してみることができるようになったのかもしれない。それによって、情や慈しみや怒りや悲しみをこえて、一人の人間として父を理解しようとする作業が行われている・・・のかもしれない。

この本を読むことも、純粋にアスペルガー症候群という症例の在り方を知りたいという知的好奇心と、それが私自身に実は大きな意味や影響を持つことであるという自覚の両方に作用している。そして、それを知ることは、確かに私の心のある種の解放に力を持つ。その意味で、読んでよかった一冊であった。