3.11大津波の対策を邪魔した男たち

3.11大津波の対策を邪魔した男たち

148 島崎邦彦 青志社

筆者は東京大学名誉教授、元日本地震学会会長。

3.11の大津波は大被害を及ぼし、原発には大事故が起きた。が、2002年に大津波の警告はすでに発表されていたのだ。ところが、防災担当大臣がその発表を止めようとし、発表に際しても「津波対策はしなくてもよい」と読める文章を入れるに至った。3.11のぎりぎりまで、津波に関する研究は続けられ、様々な対策が起案されたが、それらを東電と政府は裏で秘密会議を開いては次々と握りつぶしていた。筆者は、その裏の状況を十分に把握せずに、なぜこんなに横やりが入るのかと不審に思いながらも、少しでも正しい研究発表が行われるよう最後まで尽力していた。そして、3.11後に、様々な事情が分かってきた。なぜ、あの時にそんな横やりが入ったのか。なぜ、その時に数字を変更しようとされたのか。そういった個々の様々な問題の理由が、震災後、十年を経て明らかになった。そのことを、どうしても発表せずにはいられなかったのだ。

大津波の危険性が予期されていたのに、その研究発表が抑え込まれ、発表に際しても、東北地方の北側は問題だが、南側に関しては十分に対策されていると読み取れるような発表しか行われなかった。その裏側で起きていた出来事の数々。それらはすベて、東電と政府の都合に合わせるためのものだった。その意図に応じて望まれた通りの発言をし、研究発表を改ざんしていった研究者、学者たちが、本書には実名で登場する。そして、いつ、どのようにどんな風に動いたのかが克明に描かれている。

結局の処、あの事故は人災である。本来なら防げるはずの事故であった。大津波は想定外の出来事ではなく、十分に想定できる、想定範囲内の災害であった。だのに、東電と政府は責任を逃れている。地震予知研究の第一人者である筆者は、苦い悔恨を込めてこの本を書いている。

だから、ぜひ多くの人にこの本を読んで欲しい。だが、正直、とても読みにくい本ではある。筆者にとっては、わかりやすく、十分に理解している出来事であっても、読者にとっては初めてのことばかり。人名も大量に登場するし、科学的な知識も大量にあふれている。しかも、時系列が行きつ戻りつする。理系の鋭い頭脳の持ち主には容易に読めるかもしれないが、我々凡庸な文系人間には非常に歯ごたえのある本である。もう少し編集者がうまく交通整理をできなかったのか、という疑問が残る。また、先に結論を出してから書かれているけれど、いったい何が判明したのか、を当時の筆者と同じ時系列、同じ視点から描いたほうが、より分かりやすく、印象深く最後の結論にたどり着いたのではないか、という思いも残る。

それにしても。この本に書かれた内容によれば、本当にあの事故は人災でしかなかった。それに関する政府と東電の責任は非常に、ものすごく、とんでもなく重い。そして今も国は、トリチウム処理水などで国民を欺くようなデータを出し、十分な検討もせずに放水をしているが、その判断も全く信用できないことがわかる。今後も、デブリをどのように取り出せるのか、全く見通しが立っていないこの状況で、さらに原発を新設しようとしたり、古い原発を運転し続けようとしたり。何も過去の経験に学んでいないことは明らかだ。なぜこんなことがまかり通っているのか。考えるたびに暗澹たる気持ちになる。

もっとわたしたちは、本当のことを知らなければない。そして、正しい判断をせねばならない。