筆のみが知る

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146 近藤史恵 角川書店

近藤史恵は「シャルロットのアルバイト」以来だ。珍しく時代物。そして、絵画が絡んでいる。へー、こんなのも書くんだ、と新発見。

幽霊絵師と呼ばれる火狂と、彼が居候を決め込んだ商家の一人娘お真阿の物語。胸を病んで、家から出てはいけないと言われているお真阿の家に、風変わりな絵師が転がり込んでくる。彼の絵が気になるお真阿は、こっそりその部屋に忍び込んで絵を覗いてみる。人が怖がる絵。でも、お真阿には、また違ったものが見える。絵に込められた人の恨みつらみ、思いを感じ取って、二人がそれを供養していく。

おどろおどろしい物語かと思ったら、あと口はわりにさわやかで前向きなのがうれしい。近藤さんは、こういう明るい方向性があるから好き。絵でも文学でも、あるいは芝居や音楽でも、それでは全然お腹はいっぱいにならないし、病気が治るわけでもない。でも、人は、それらなしには生きていけない。なぜなら、心があるからね。無駄に見えるけれど、とても大切なもの。芸術ってそういうことなんだなあ、と改めて思う。

火狂とお真阿の物語、もうちょっと読みたい。続編、期待。