あの日からのマンガ

あの日からのマンガ

2021年7月24日

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「あの日からのマンガ」 しりあがり寿 エンターブレイン

うまいとか下手とか、役に立つとかたたないとかではなく。そんなことを考えたのではなく、自分がどう受け止めたのか、何をしようと思ったのか、何をしたのか、どう考えていたのか。それを、そのまんま、その時点で、描き残そうとした、その思いが強く伝わってくる。

表現者とはそういうものなのだと思う。あの壮絶な、何が本当で何が間違いで、そうすることが正しいのか、まったくわからなかった日々を送ってしまったことを、体験したことを、感じたことを、どうにか残そうと、伝えようとするのが表現者なのだと思う。

私はしりあがり寿のマンガはあんまり好きじゃなかった。
でも、この本は好きだと思った。
誠実にあふれた本だと思った。

「川下り双子のオヤジ」という作品が印象に残った。
まるで迷路みたいな川を筏で下っている双子のオヤジに鳥たちが「あっちだ」「うんにゃこっちだ」とピーチクピーチク騒ぎ立てる。
「バカだねその赤い実はそうカンタンに爆発しないよ」
「いやもうすぐにでも爆発するぞ」
「あり得ないよー」
そして、本当に爆発すると
「やっぱり爆発したろー」
「ざまーみろー」
「たまたま当たっただけだろ」
と喧嘩が起き、
「大げさってチェルノブイリを知らないのか」
「デマはやめろ」
「恐怖をあおるな」
「死ぬのを待ってるのか」
とさらに大騒ぎになり、
「あのー、信頼出来るリーダーはいませんか」
と双子のオヤジが問うと、でかい鳥が出てきて
「まあ、直ちに健康に害があるとは言えんからなー」

最終的に、双子のオヤジは
「絶対安全な道なんてないことは知ってるよ」
「正しい情報が分かれば自分たちで判断する」
と宣言、何とか抜けるのである・・・・。

(セリフ引用は「あの日からのマンガ」しりあがり寿より)

2012/7/20