お砂糖とスパイスと爆発的な何か

お砂糖とスパイスと爆発的な何か

2021年7月24日

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「お砂糖とスパイスと爆発的な何か

不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門」

北村紗衣 書肆侃侃房

一年に百本くらい映画を映画館で見て、かつ百本くらい舞台も劇場で見て、その全部について簡単な批評をブログにアップし、さらに年に二六〇冊くらい本を読む、シェイクスピアのフェミニスト批評が専門の大学教員が書いた本。たしかに頭がキレッキレだわ、この人。

フェミニスト批評入門書というだけあって、いくつかの舞台や映画や本に潜んでいる性差別を取り上げて、そこからの視点で見直してみる、という作業が行われているが、最終的に何らかの結論に達しているか、というとそうでもない。あとはあなたがお考えくださいね、的なところで止まっているような。長らくイギリスに留学していたというだけあって、テキストが私の知らない舞台や映画や物語ばかりなので、今ひとつピンとこないのが残念。でも、たまに知っているものとぶつかると、おおお!と思えるので、この本を存分に楽しめないのは、やはり私の不勉強によるところ大なのかもしれませんな。

たとえば、あんなに評判になったのに、テレビで見て、私が全然面白いと思えなかった「アナと雪の女王」。あれを、セクシュアルマイノリティのジェンダー・アイデンティティの問題や、芸術と社会との関わりという視点で見直すという方法。あるいは、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を同性愛的な視点から見直すという方法。また、「プリズン・ブック・クラブ」からは、「性格批評」という方法論を提示して、あなたも読書会をやってみたら、という提案で章を終わらせているのだけれど、そう!それをやりたいのよ、私は!!とぶんぶん首を縦にふるわけである。

途中途中には小さなコラムが挟まれているのだが、その中の「フェミニストの洋服選び」が興味深い。自分の意志で着ているのであれば、どんなにセクシーだろうがみすぼらしかろうが人にはなにか言われる筋合いはない、とまず釘を刺す。そのうえで、自分は学会にできるだけピンクや赤のひらひらした服を着ていくのだそうだ。働く女は男社会で黒や灰色など男性に溶け込める服を選び、自分を真面目に見せるが、それは「檻」であるというのである。ネルソン・マンデラは公の場でしょっちゅうスーツじゃなくてカジュアルで派手なシャツを着ていたが、これは地位の高い男なら西欧風の正装をするのが礼儀だという欧米中心の固定観念に抗うためである、と後になって知ったという。

このあとに読んだ、ウーマンリブの田中美津の本にも、白いミニスカートで活動をしたことをあげつらわれた話が登場していたが、服装って、結構、注目すべき問題なのかしらん、とちょっと思った次第である。

この本に登場する映画や舞台を全部見てから読み直したら面白かろうに、とは思うが、なかなか難しいなあ。

2020/2/24