プリズン・ブック・クラブ

2021年7月24日

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「プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年」

アン・ウォームズリー 紀伊國屋書店

 

2011年から2012年にかけて、二か所の刑務所読書会でボランティアを務めた経験をもとに書いた本。作者はカナダ人の女性ジャーナリストである。
 
本を読むということが人生にどんな影響を与えるか、を改めて思い返すことが出来る本である。本好きは共感すると思うなあ。
 
作者は、自宅近くで強盗に首を絞められるという経験を持っていて、犯罪者に対しては強いトラウマがあり、刑務所内の読書会に参加するなど、とても無理だと思っていた。だが、読書会主催者であるキャロルというとても魅力的な女性に誘われて、意を決して読書会に参加する。殺人犯や詐欺犯、麻薬販売者などの犯罪者たちとの読書会は思いもよらぬほど豊かなもので、受刑者のみならず、作者自身もそこから大きく学び、成長していく。これが現実にあった話だということに私は胸うたれる。
 
読書会の後に、受刑者たちとざっくばらんなおしゃべりを交わしたエピソードがある。
 
話はしょっちゅう脱線したが、どんな話題になっても、これまで読んできた本のどれかに結びついた。自分たちの中にしっかりと根を下ろした本の数々が、まるで経験のように、記憶として、あるいはものごとの判断基準として立ち上がってくるのだ。
 
読書というのは、まさしくそういうものだ、と私も思う。自分自身を取り巻く僅かな現実を超えて、本は、いながらにして全く別の新しい世界を広げ、経験を与えてくれる。そして、同じ本を読んだ者同士は、あたかも同じ場所に旅をしたかのように思い出を語り合ったり、それによって得たものを確かめ合うことができる。
 
作者は、受刑者が読書日記を付けられるように日記帳をプレゼントする。その日記を受け取り読むこと、そして読書会への参加を重ねることで、作者も多くを得て、そして、自分のトラウマからも脱するチャンスをもらうのだ。
 
わたしは老眼鏡をはずし、フランクの日記帳を脇のテーブルに置いた。この世界には、なんとさまざまな囚われびとがいることだろう。監獄の囚人、宗教の囚人、暴力の囚人。かつてのわたしのような恐怖の囚人もいる。ただし、読書会への参加を重ねるたびに、その恐怖からも徐々に開放されていった。(中略)
読書会でメンバーたちがそれぞれ自分の考えを口にし、互いの意見を聞いて、ときには見かたを変えていくのを目の当たりにするうち、いつのまにか、わたし自身もみずからの考えを突きつめて、意見として表明できるようになりつつあった。そして、そんな自分が嫌いではなかった。
 
受刑者たちは、出所後にも読書会を立ち上げ、継続しようと試みる。それが今どうなっているかはこの本からは不明だが、少なくとも、読書という経験を経ることで、彼らは自分の内面を見つめ、自らを振り返り、明日を生きていくエネルギーを得ているのがよくわかる。
 
読書は、人生の大いなる栄養になり得るし、それ自体が素晴らしい経験である、と改めて思える良い本である。読書好きならぜひ、読んでみて。
     
    (引用は「プリズン・ブック・クラブ」アン・ウォームズリー より)

2018/5/10