ぐるぐるなまいにち。

ぐるぐるなまいにち。

2021年7月24日

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「ぐるぐるなまいにち。」ムラマツエリコ なかがわみどり JTB

南の島ぐるぐる」のk.m.p.の本です。図書館で偶然見つけて、お、いいの見つけた、と結構喜んで借りてきました。

でも、読み終えて、気持ちは複雑です。安定した会社をやめ、結婚や子育てなどの枠組みを外れ、二人でやりたいこと、できることをがんばってコツコツやっていこう、海外にも飛び出していこうという気概を持った二人を私は好ましく思い、心から応援したいと思っていました。

実際、この本には苦労しながらも、二人がどんなふうに夢を実現に向けていったかが、細かく丁寧に描かれています。雑貨やアクセサリを作ってはフリーマーケットで売ったり、旅に出て、それを本にしてみたり。できるだけ人の手を借りないで、二人でコツコツ頑張っていくうちに、だんだんに買ってくれる人、出版してくれる人が出てきた経過がわかります。それはとても素晴らしい。

けれど、同時のこの本には、恨みと憎しみが込められています。仕事の依頼に来たはずなのに延々と自分語りをする人、自慢話だけ聞かせてこちらの仕事を評価してくれない人。ボツになったと言ってギャラをごまかす人、機材を詐欺のように盗みとった人。結婚しないの、と安定した勤めをしないの、と枠にはめようとする人、こっちのほうが楽だよ、と見せびらかす人。

結婚したって全然幸福そうじゃない、楽だと言ってる人は全然楽そうに見えない。夫や子供や親戚に縛られて、自分が自分じゃないみたい。夫婦のこと、男女平等のこと。ものすごく深く熱く語ってはいるのだけれど。

なぜだろう。読み終えて、気分がずーんと沈み込むのです。好きなことをやって、夢にむかって頑張ってる人たちの本を読んだはずなのに、読み終えると、私が悪かったの?と後ろめたい気持ちが残ってしまう。

好きなコトをやってものすごく苦労したり貧乏になったとしても、自分たちのあり方が批判にさらされたとしても、そういうネガティブなことを、ネガティブなままに書いちゃったら、それは、ただ、吐き出したにすぎないのではないか、と思うのです。一度消化して、遠くから眺めてみて、笑ってみせるくらいの余裕があって、初めて人に手渡す価値のあるものになるのではないかしら。

例えば、「カソウスキの行方」だって、そうとう情けない、逃げ場のない状況が描かれていたけれど、でも、読んでいてやりきれない気持ちにはならずに済みました。主人公のひどい状況を、書き手がちゃんと離れた位置でながめて受け入れているのがわかったのです。そこには、不思議なくらいユーモアがありました。

この本は、可愛らしい絵がたくさんあって、面白いエピソードも詰め込まれているのに、なんだか重苦しくてあんまり笑えないのです。ただ、ネガティブな思いがずんずんと伝わってきてしまう。

会社を飛び出して、不安定でもやりたいことをやることを選んだのは、あなたたち。同じように、アタリマエのことと言われながらも結構大変な、結婚して子供を育てて、という生活をしている人たちも、自分で選んでいるのです。どちらにだって、楽なこともあれば、大変なこともある。どっちが正しくて、偉くて、善いかなんてことは誰も決められない。だから、自分たちが頑張っていると書く時に、あっち側と比較してどっちがいいかみたいな発想をしたってつまらない。なんだか、自分たちのことばかり考えて、主張して、周りを見渡す余裕が無いんじゃないかしら、と読み終えて疲れてしまった私でした。

2013/9/25