じっと手を見る

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2021年7月24日

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「じっと手を見る」窪美澄 幻冬舎

 

七章に分かれていて、それぞれに主人公が変わる。最初の章の相手役が次の章の主人公、というように。だから、それぞれが何を考えているのか全体像が読者には伝わる。
 
人の心は思い通りにいかないもので、こうすればいいのに、この人を好きになれたらうまくいくのに、こっちを選択すればベストだとわかっているのに、ぜんぜん違う方向へ進んだりする。自分で自分がわからなかったり、怒ったり悲しんだりすればいいのにそれがうまくでいなかったりして、気がつくと思いもよらない場所でぼんやりしてしまうことになる。
 
そんなふうに、思い通りには行かない、明るくもなければ美しくもない、でも、確かにこんなことってある、と思える恋愛小説だ。
 
登場人物は介護の仕事についている人が多くて、それがあからさまには物語の中に描かれないが、静かにその仕事が、日常が、彼らのリアルを包んでいる。
 
なんだか良い小説だった。若い頃に読んだら、ただただ優柔不断なだけじゃ~ん、で終わっていたかもしれないのに。こんな風に自分の内側をじっと見つめて生きているひともいる、それもいい、と私は思った。

2018/9/28