にょっ記

にょっ記

2021年7月24日

130

「にょっ記」穂村弘 文春文庫

 

娘は悲しき大学受験生である。インフルエンザにかかるわけには行かないのである。というわけで、予防接種の予約を入れておいたのに、予約日当日に熱を出すというツメの甘いやつである。彼女のツメの甘さは今に始まったことではなく、中学生の時、スキー合宿に到着した夜にインフルエンザを発症して山までお迎えに行ったこともあれば、高校吹奏楽部のクリスマスコンサート当日に楽屋で発熱してお迎えに行ったこともある。どうかひとつ、受験当日にはそんなことは無しでいただきたい。
 
というわけで、予約日を二週間もずらしてもらって、やっと予防接種を受けに行ってきた。なぜだか予防接種は親子ペアでよろしく、というのがかかりつけ医のお約束らしく、私も一緒に受けるわけである。順番を待つ間に待合室で読んでいたのがこの本である。静かな待合室の中で、思わずぐふぐふ笑ってしまって、恥ずかしいことこの上ない。
 
「きびしい半ケツが出ました」という冗談を思いつく。
 
というフレーズで、気がついたら吹いていた。
 
「毛穴のない女になる」という吊り広告をみて、ぎょっとする。
 
には、ただただ深く頷いている。
何を笑っているの、と娘に本を取られ、しばらく目を通してから、ふうん、と冷たい目で本を返されてしまって、ちょっとへこんだ。若造にはわかるまい。
 
穂村さんとは、とある駅前の薬屋ですれ違ったことがある。何か思い詰めた顔をした人だ、どこかで見たことがあるなあ、と思って、しばらくして、あ、あれは穂村弘さんの顔だ、と思いだした。あの駅の付近に行けば、また会うことがあるかも。でも、だからなにを言うわけじゃないし、とちょっと笑う私である。
 
予防接種の順番がやってきて、娘が先に受けた。高3にもなって「痛くなくしてください」と真顔で頼むのを聞いて、またちょっと笑ってしまった。
 
(引用は「にょっ記」穂村弘 より)

2016/11/27