ねえねえ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと 

ねえねえ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと 

2021年7月24日

118
ねえねえ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと
ジェイミー・リー カーティス作 ローラ・コーネル絵 偕成社

子どもたちは、自分が生まれた時のことを聞くのが好きです。小さいころ、何度話してやったことでしょう。だから、この絵本も、そういうお話だと思って手に取ったのです。

ところが、「わたし」がうまれたとき、病院からの電話で、お母さんは飛び起きたのです。お父さんは横で、いびきをかいて、寝ていたのです。えええ?

この子は、自分を産んでくれたママと、育ててくれているお母さんが別の人だということを知っています。そして、自分が愛されて、大事にされていることも知っていて、自分が生まれた日のことを聞くのが好きなのです。

ほんとうに嬉しそうな、幸せそうな笑顔が描かれています。安心しきった笑顔です。

ところで、少し前、久しぶりに帰省した息子と、私は、胎児の出生前診断についての話をしました。生物学を学んでいる息子には、これはホットな話題らしいのです。彼の周囲では、診断を受けるかどうかは本人の意思に任せるべきであって、規制をするべきではない、という意見が、女性のほうに、多かったそうです。お母さんはどう思う、と問われて、私は、おちびがお腹にできた時のことを思い出しました。

当時、既に、子どもを生むには歳が行き過ぎていた私は、最初に行った産婦人科で、いきなり、「本当に産むの?」と聞かれたのです。「まだ、胎胞が確認できないし、ちゃんと育つかどうかもわからないよ。高齢出産だからね。羊水チェックしないとね。ダウン症児が生まれる確率も、ぐんと上がってるからね。産むのをやめるなら、今のうちだよ」と。私は黙ってそこを出て、二度とその医者にはかかりませんでした。

二つ目の産婦人科でも、まだ胎胞は確認できない状態でした。高齢出産の危険性ばかり、そこでも強調されました。そして、産む産まないを決める前に、まず、羊水チェックをするように、強く勧められました。でも、私は、どんな子でも、とにかく育ってほしい、ちゃんと大きくなって生まれてほしいとしか思えませんでした。だから、その病院もやめて、三軒目に行ったのです。

「おめでとうございます」と言われたのは、三軒目の病院が初めてでした。そこで、はじめて、私は、自分の身に起きたことが、おめでたいことだったのだ、とわかりました。それまでは、ただただ、不安で、私なんかのところに来てしまったこの子がかわいそうでならないとばかり思ってしまっていたのです。

・・・という話を、私は息子にしました。その時、私はお腹の子がどんな子であれ、育ってほしいと思った。それは、なんにも考えていなからだったのかもしれないし、無責任なことだったのかもしれない。大変な思いをして子どもを育てている人から見たら、なんて脳天気なことを言っているんだ・・という発想だったのかもしれない。だとしても、私は、それがどんな子であるかを、知りたいとは思わなかった。男か女かすら、知りたいと思わなかった。生まれてくる子を、そのまんま、受け止めたいと思った。きっと好きになれると思った。

だからといって、知りたい、と思う人を責めたり止めたりはできない。ただ、科学は人を幸せにするとは限らないなあ、とは思う。いろんな人間がいて、それぞれに幸せになればいい、という考えが、いろいろなことを選べるようになった事で否定されてしまうのは、なんだか怖いような気がする、と。

すっかり話がそれてしまいましたが、なぜ、そんな話をしたかというと、私は、その時、お腹の子を絶対好きになれる、きらいにはならない、という確信が持てていました。でも、それは、その子が間違い無く私の子だからなのかもしれない、と思ったのです。まったく血のつながりのない、よその子どもを連れてきて、本当にその子を愛せるのか、と問われたら、私は自信がもてません。その子がいけないことをした時に、あんたなんて嫌い、と思ってしまわないと言い切ることができないような気がしたのです。

でも、もし、病院で取り違えられていて、この息子が、本当の私の子どもではないと、ある日、言われたとしたら?嫌いになるなんてことはあるのだろうか・・・・・。なんだかわからなくなってしまいました。

この絵本の子どもは、きっと、本当に養父母に愛されているのでしょう。それが、ちゃんと伝わるような本です。でも、私はそれができるかどうか、わからない。どうなのだろう。悩んだところで、きっと、私は、養子を育てるなんてことはこれからもないでしょうけれど。

どんな子でも、幸せであってほしいなあ、と願いながらも、結局は、我が子だけが可愛い私なのね、と改めて思い知ってしまった本なのでありました。

2012/10/7