私はあなたの記憶の中に

私はあなたの記憶の中に

2021年7月24日

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「私はあなたの記憶の中に」角田光代 小学館

 

八つの短編が収められている。初出はかなり古い1996年から、新しいものでも2004年。記憶の中に残る人の思い出が描かれている短編ばかり。角田さんらしい、淡々とした中にある個性のきらめきが感じられる。
 
1996年から2004年。まだあのことも、あんな事も起きてない頃だったのだなあ、などと思ってしまう。津波も原発もコロナもまだだった。当たり前の毎日があったんだなあ、と。
 
携帯でメールのやり取りをすることが習慣化する頃、メルアドの勘違いから起きる顛末が描かれた短編があって、時代を感じた。私が若い頃は携帯もなく、貧乏な下宿学生には専用電話すらなかったものだ。でも、あのころ私は、平安時代の女性がひたすら恋人の訪れを待つのはどれだけ辛かっただろう、今で良かった、などと思っていたのだったっけ。
 
今、このときにも、コロナのせいで会うこともできない恋人たちもいるのだろうなあ。LineやSNSで愛を育んでいるのかしら。いつの時代も、困難はあって、でも、どうにか私達は生き延びてきた。だから、頑張ろうね、私達。いつか、あんなときもあったね、と笑える時が来ればいい。

2020/4/23