のはなしに のはなしさん

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2021年7月24日

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「のはなしに」「のはなしさん」伊集院光 宝島社

前にも書いたように、「笑っていいとも」が終わってから、私の昼食のお供はネットで聞く「伊集院光の深夜の馬鹿力」になった。聞けば聞くほど伊集院光は深くて面白い。基本的にくだらない話がしたくてたまらないのだが、こだわりが強くて誠実なので、つい真面目な話になってしまう。が、ぎゅいん、とハンドルを切って、最後は必ず落とす。落とし方に暗闇が垣間見えるのも魅力である。

「のはなし」シリーズの第二弾第三弾を続けざまに読んだ。短いエッセイがたくさんつめ込まれているので、当たり外れは多少あるが、人となりが伝わってきて、いい気分になるものばかりだ。

私が気に入ったのは、「のはなしさん」の一番最初と一番最後の話だ。最初の話は「愛だの恋だの」の話。TV番組で、男ならだれでも浮気するものだという前提で話が進むのに対して「僕、かみさんがもし死んだら次の日死ぬかもしれないって思ってます!」って言っちゃったら、かみさんが八百屋のおじさんに「俺も母ちゃん一筋だ!」って惚気られたよ、ペット病院でも冷やかされたよ、と言われたというエピソードなんだけど。その後にかみさんが伊集院に言ったって言葉がなかなか秀逸で、私は好きだ。「でも、そんなに好きなら、死ななくていいから脱いだ靴下を洗濯物カゴに入れてね」だって。でね。その後、「先日番組を拝見しました。私も妻が死んだら次の日僕も死ぬと思って暮らしてきました。」という視聴者からの手紙が来て、読み進めると、「先日その妻が病気で亡くなりました」と。背筋に冷たいものが走り、心臓の鼓動が早まる・・・。この話のオチは、かみさんの言葉への返答にもなっていて、とても良かった。

最後の話は、伊集院の師匠の師匠だった円楽師匠のお通夜の話だ。一門を離れてしまった伊集院は、身内だけで執り行うという通夜に、自分が身内として行っていいかどうかずっと悩む。ダイエットを繰り返してぴったりの喪服がないことを言い訳に行かないことにしようとするのだが、かみさんの車でサカゼンに連れて行かれ、喪服が間に合ってしまう。そして思い切って遅れながらにも出て行くと、師匠の息子さんに暖かく迎えられ、六代目圓楽師匠や兄弟子と久々に話し込む・・・というだけの話なのだが。高校時代、不登校から中退し、道を踏み迷っていた彼が落語家修行からも脱落し、いろいろあってここに来た、その経緯を読んだあとだと、実にぐっと来てしまうのだ。

思い立って、3.11直後の「深夜の馬鹿力」で彼が何をしゃべっていたかを検索してみた。番組は報道に塗り替えられていたのだが、伊集院はオープニングの三分間をもらって、自分の思いを述べていた。真面目で、誠実で、でも、くだらないことを言うこと、笑うことの力を信じている彼らしい言葉が聞けて、うんうん、と頷いてしまった。伊集院光ブーム、まだまだ私の中で続いている。

2014/5/20