やめられない

やめられない

2021年7月24日

164

やめられない ギャンブル地獄からの生還」帚木蓬生 集英社文庫

 

若い頃、延滞管理や債務整理の手伝いを仕事としてやっていた時期がある。借金は病気であるとほとほと思い知った。
 
返しきれない借金を抱えた人がうなだれてやってきて、心から反省していると言い、更生を誓う。職場の上司や同僚に説教され、諭され、それに涙ながらに返事をし、あちこちにあふれた借金を一箇所にまとめ、地道に返していく道筋をつける。返済金は給与からの天引きで逃げ道も塞ぐ。にもかかわらず、やるのである。半年も経てば、またどこかから借りている。首が回らなくなる。これで全部だと言っていたはずなのに、違う場所から、以前の借金が顔を出す。用途はたいていギャンブルである。酒や女もなくはないが、基本はパチンコ。お手軽で、どこでもできる、パチンコである。反省なんてみんなうそっぱっちだ。借金癖人間は、恐ろしいほど平気で嘘をつく。それを嫌というほどみた。本当に更生した人に、まだ会ったことがないと思う。
 
この本は、医師である帚木蓬生が書いたギャンブル依存症の本である。ギャンブル依存症は病気であること、本人の意思の力では絶対に治らないこと、借金がどんなにかさんでも、身内が代わりに返済しては絶対にいけないことが書いてある。そうだ。身内が大きなお金を出して全額返済してやることは、新たな借金を生み出すきっかけにしかならない。私も何度もそのケースを見ている。ギャンブル依存症患者の借金を、身内は放置するのが正しい。決して、助けてはいけない。これが大原則である。
 
いくつもの悲惨なケースが載せられている。それらを読む時点でうんざりして続きが読めなくなる人も多いかも。でも、もし、身内にギャンブル依存症と思しき人物がいるのなら、どうか頑張って読み続けて欲しい。何をするべきかがちょっとだけ見えてくるから。
 
日本はギャンブル大国である。なぜってパチンコがあるから。競馬や競輪は賭博だが、パチンコやスロットは、日本では「遊戯」扱いである。誰でも身近に手軽に楽しく遊べる大人の遊戯だとされている。景品交換所はパチンコ屋やスロット場とは無関係の、全く預かり知らぬ存在とされているから。んなことあるか!!!!!
 
2008年、厚労省委託の研究班が5千人程度を対象に調査を行った結果、ギャンブル依存症は男性の9.6%、女性の1.6%、全体で5.6%という恐るべき数字が出た。あまりの多さに研究班側が公表を見送り、2013年に再度4千人規模で調査、男性8.9%、女性1.8%、全体で4.8%とされた。全人口に照らして536万人。北海道の人口に相当する多さである。この数字に政府は青ざめ、公言を控えた。2016年に東京、大阪、名古屋、福岡など十一都市の住民2千二百人を調べ、2.7%という数字を出した。しかしこれは都市部だけなので、さらに2017年、全体調査を行ったところ、全体で3.6%、有病者320万人と出た。福岡市の人口の二倍である。ギャンブル依存症は家族を含めた周囲に害悪をもたらす病気なので、一千万人が苦しんでいると推定できる。恐ろしいことである。にもかかわらず、IR整備推進法が可決され、カジノが解禁されるという。恐ろしいにもほどがある。
 
パチンコとスロットがこれだけはびこっている日本はすでにギャンブル無法地帯である。そこにカジノがやって来ることによって、ますますギャンブル依存症は蔓延し、ギャンブルに関わる犯罪は増えていく。ギャンブル依存症に原因を見いだせる自殺者数も更に増加の一途をたどるだろう。なんてひどい国だ、と言いたくなる。いいのか、それで。

2020/1/14