あの日、マーラーが

あの日、マーラーが

2021年7月24日

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「あの日、マーラーが」藤谷治 朝日新聞社出版

「船に乗れ!」の藤谷治。久しぶりだなあ。

2011年3月11日。東京、錦糸町の錦糸ホールで、マーラーの交響曲第5番を演目とした新世界交響楽団のコンサートがあった。聞くために、演奏するために、一人ひとりが、直前にあったあの大震災をどのように受け止め、どのようにしてそこに集まったのか。それを、何人かに焦点を当てて描いている。

一人の老後を楽しむ老婦人、地下アイドルオタクの青年、夫と別れたばかりなのに復縁を迫られている女性、本とCDにまみれた部屋で途方に暮れていた自意識の高い男性、演奏活動を続けることに必死のエキストラ演奏者・・・・。様々な、ばらばらな人生がそこに集まり、演奏していいのか、聞いていていいのか、をも含め、それぞれの思いを描き出している。

あの日、私は関西にいて、ひどい揺れを経験していない。ただ、ふとテレビを付けたときには、もう、津波が起きていた。病院に行った母と連絡が取れないことが、その後にわかった・・・。あの日のことを、忘れられない。誰もがそうであるように。

一人ひとりが忘れられないあの日を、コンサートという状況とともに切り取ったこの本を読むことで、もう一度振り返ることになった。

2019/10/25