船に乗れ!

船に乗れ!

2021年7月24日

「船に乗れ!1 合奏と協奏」
「船に乗れ!2 独奏」
「船に乗れ!3 合奏協奏曲」  藤谷治 ジャイブ

図書館にリクエストして、半年以上待たされた本。
一巻は、若さを感じる爽やかな読後感でした。
音楽高校でチェロを専攻する主人公が、この時期ならではの自意識に振り回されながら、ともに音楽を作り上げながら、日々を過ごしていく。
不器用な恋。広がる妄想、臆病な進展。いいなあ。高校生じゃなきゃこんな恋はできないわね。

なんて思っていたら。
二巻では、思いがけない展開。
悲しくて、辛くて、苦しくて、そうだそうだ、若いってこういう事だったかも、と思いだす。
先が見えない。
そして、人は時として、思いがけないほど残酷に、人を傷つけてしまう。
とりわけ、この若い季節には。
これからどうなるのおおお、と三巻がひたすら待ち遠しく。

そして、三巻。
一番苦しかったのは二巻だけど、この終わりも、切ない。

波がおさまってほしいと願うのは、海が平らになるのを望むのと同じだ。船酔いはいつかなくなるだろう。でも、揺れはいつまでも続いている。船酔いがなくなったとき、君は、船はもう揺れていない、などと思ってはいけないよ。それは大人の嘘だ。大人は、自分自身についている嘘を、人にも信じさせようとする。自分より若い人に。誰がなんと言おうと、船酔いが軽くなったからといって、船が揺れ続けていることを忘れてはいけない。」
(「船に乗れ!3 合奏協奏曲」藤谷治 より引用)

よく考えたらひとつひとつのプロットは、案外ありがちなのかもしれないのに、こんなにも惹きつけるのは、根底に深い深い悲しみと葛藤があるからだろう。
音楽を学ぶ特殊な学生たちの話ではなく、誰もが何かを思い出す、美しい青春小説だと思う。

音楽にどっぷりの息子に読ませたいなー、と思って勧めたのだけど、読んだだろうか、あいつ。

2010/9/6