聖地巡礼

聖地巡礼

2021年7月24日

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「聖地巡礼 Rising 熊野紀行」内田樹☓釈徹宗 東京書籍

「聖地巡礼」の続編。今度は熊野を巡礼します。

熊野には行ったことがある。と言っても、車でばーっと一日で回ってしまったので、とても巡礼とはいえないのだが。深い山と森と川の中に静かな神社が幾つもあって、最後は那智の滝に圧倒されたのを覚えている。

那智の滝は縦にとても長く、眺めていると一種のトランス状態に入る、と内田先生と釈徹宗氏は言われる。たしかにそうかも。熊野の土地の宗教性の強さゆえに、山の中で修行していると、最後は補陀落渡海するしか落とし所がなくなってしまうのかも、という話の流れは興味深かった。補陀落渡海とは、小さな船に何日分かの食べ物を積んで、渡海僧は外から板で打ち付けられて屋形の中に閉じ込められたまま海に流され、ずっとお経を唱え続けながら死んでいく・・・という捨身行である。そんなとんでもないことを、と現代の私たちは思うが、熊野を巡礼していくと、それがなんとなく理解できていく・・らしい。

作者二人の所属する巡礼部には神主も牧師も僧もいるので、大抵のことには対応できる、というのが面白い。神社に行けば、神主が詔をあげるし、寺に行けば僧がお経もあげられる。次回は長崎へ行って隠れキリシタンの歴史にも触れるというから、今度は牧師の出番である。あらゆる宗教家が仲良くいろいろなところをめぐり、忌憚なく思いを話し合えるのって、本当にいいなあ。そういう平和がどんなにいいことか、と私は強く思う。

2015/4/9