こころで勝つ!ー集中の科学 インナーゲーム

こころで勝つ!ー集中の科学 インナーゲーム

2021年7月24日

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こころで勝つ!ー集中の科学インナーゲーム」
W.T.ガルウェイ 日刊スポーツ出版社

これはテニスが上手になるための本だけれど、テニスだけの本ではない。そして、直接テニスについて書かれていない部分のほうがずっと興味深く、面白く、役に立つ。ここに書かれていることは、どんなことにも当てはまる人の心のあり方と集中の仕方の方法論だからだ。

コート上のテニスのプレーヤーの内部では「ボールに立ち向かえ」「膝を曲げろ」「ボールから目を離すな」などとひっきりなしに誰かが誰かに命令し続けている。作者は命令者たる自分をセルフ1、命令を受けて実行する自分をセルフ2と名付けた。そして、この、人の内部に同居するセルフ1とセルフ2の関係こそが重要であると指摘している。すなわち、セルフ1を静かにさせ、セルフ2を信頼することこそが集中力を持続し、ベストなプレイをする鍵となるというわけだ。

セルフ1を静かにさせる方法として提示されている「裁判癖をなくす」はなかなか鋭い指摘である。何かことが起きる度に、それに善悪の判断を付けたがるのがセルフ1の癖であリ、それによってセルフ2は萎縮する。これはもう、テニスを超えた指摘である。何事に対しても「それはいいことか、正しいことか?」に囚われると、とたんに心が萎縮するのは、度々経験することだ。あるがままに現実を受け入れる余裕があるかないかで、物事の対応は大きく変わる。

人は何のためにテニスをするのか、という分析がここではなされているが、それは取りも直さず、大きな命題につながっていく。自分の価値は人よりいかに強いかで決まるというセルフ1のエゴに振り回されている限り、セルフ2はベストなプレイができない。それは、まさに人生そのものではないか。

テニスなんて何の興味もない私であるが、この本はとても興味深く楽しめた。ひとに褒められなければいけないとか、いつも一番でないといけないとか、周囲の人が自分を嫌っているのではないかといつもビクビクしている人は、一度この本を読むといい。きっといろいろなことに気がつけるだろう。

2013/2/12