カレーの時間

カレーの時間

142 寺地はるな 実業之日本社

「夜が暗いとは限らない」以来の寺地はるな。「夜が暗いとは‥」に登場するあかつきマーケットがちらっとだけ出てくるから、同じ世界の話なんだろう。寺地はるなの物語には、繊細な人が必ず出てくる。この本も、繊細な若い男性が、がさつで傍若無人な祖父と否応なく同居させられる物語である。

わがままで勝手でごみ屋敷のような一軒家に住む祖父はレトルトカレーの会社の営業だった人で、いまだに甘口のレトルトカレーを孫が喜ぶと思い込んで何十個も買いこんでは押し付ける。孫である主人公は、それをアレンジしてスパイスカレー風に仕上げたり、煮詰めてドライカレーにしてみたり、ショウガをたっぷり入れたり、素上げの野菜をトッピングしたり。なかなかおいしそうなカレーが何度も登場する。

わがままでがさつに見える祖父には祖父の歴史があり、その祖父から逃げて行った祖母には祖母の歴史があり、どちらが悪いと決めつけられるものでもない。主人公には主人公の人生観があり、生き方があって、それが人とうまく絡みあわないこともある。が、ただ逃げて怯えているだけではダメなんだということもなんとなく学び取れていく。

人は、〇と×に分けることなどできない。どんな人にも切実な思いがあり、真剣な祈りがあり、間違いや失敗があり、どうしようもない事情もある。そんな中で、人は生きている。悪い奴、いい人、などと区分することなく、いろんな人がいて、頑張ってるんだよな、と思える、そんな物語をこの人はいつも書く。それが私は好きだ。