クララとおひさま

クララとおひさま

2021年8月16日

66 カズオ・イシグロ 早川書房

カズオ・イシグロは、判じ物みたいな物語を書く。「わたしを離さないで」がいったいどんな世界なのか、全体像を把握できたのは、読み終える少し前だった。

この本だって、いろいろな用語がなんの説明もなく登場するのでAFというのが何なのか、向上措置というものが一体何を指すのか、この世界はどうなっているのか、最初は全くわからなかった。それから、徐々に、薄紙を剥ぐように、様々な出来事の中から、いろいろな事実が浮き上がってきて、最後はなんとなく全てがわかった、ような気がした。気がしたけれど、詳細は振り返って何度も考えてみないとわからないし、考えているうちに、こういうことなのか、と想像できる部分が増えてくる。スルメみたいに、何度も何度もしがんでいるうちに、思いがけない味が湧き上がったりもする。

似たようなテイストのマンガを昔読んだような・・・と記憶をたどったら、業田良家の「機械じかけの愛」に行き当たった。カズオ・イシグロ、業田良家は読んでるだろうか?読んでなくとも、同じようなことを考える人はいるものだしなあ。・・・と思ったら、なんと、私は「機械じかけの愛」を読んで逆にカズオ・イシグロを思い出していたのでした。やっぱりなあ。

クララの献身的な愛は、胸が熱くなるほどだ。でも、クララにとって、それは当然の感情で、何も特別なことではない。という気持ちの動きも、そのまんま、わかる気がする。愛情って、当たり前のものだからね。

それにしてもカズオ・イシグロ、すごい。まだ読み残した作品がいくつかあるので、ちゃんと読んでみよう、と思った。読んだら、書きます。