夜明けのすべて

夜明けのすべて

2021年8月11日

65 瀬尾まいこ 水鈴社

PMS(月経前症候群)の女性と、パニック症候群の男性の物語。恋物語と言っていいのかどうかわからない。だって、ふたりとも互いに恋愛感情も、友情すら抱いていない、と自覚しあって、でも、事あるごとに心配し合い、支え合い、助け合って過ごしているのだもの。

普段はおとなしくて控えめで、人のことばかり気にして、自己主張など何もできない女性が、月に一度だけ攻撃的になって、悪しざまに人をこき下ろす。でも、それはPMSの症状であって、それを超えるとしゅんとなって攻撃した相手に謝りに来る。美味しいお菓子なんぞを携えて。

そんな彼女が攻撃してしまった新入社員は、バリバリのエリートで彼女も友達も大勢居て、仕事もぱっぱとこなすデキる男だったのに、パニック症候群になって、もう、乗り物にも乗れない、密閉された場所にもいけない、ちょっと変わったシチュエーションに出会うともう動けない。

そんな二人が、それぞれに弱点を補って、なんとかやっていく物語。瀬尾まいこらしい、悪人が一人も出てこない、優しくて暖かくてまるでおとぎ話のような展開である。

日ごろおとなしくて、自分が人にどう思われているかばかり気にするような人って、たしかにこうだよなあ、と思わせるような鋭い観察がそこここに光る。そして、そんな面倒くささも、許せる、愛せるような感覚に落とし込まれていく。やるなあ、瀬尾まいこ。ただの善人なだけでは、きっと書けないぞ、こんな小説。