ケーキの切れない少年たち

ケーキの切れない少年たち

2021年7月24日

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「ケーキの切れない少年たち」宮口幸治 新潮新書

 

精神科医である著者は、少年院で法務技官、その前は公立精神科病院で児童精神科医として働いていた。そこでは、トラブルを起こした少年に対して認知行動療法を行っていたのだが、十分な効果が出ないことも多かった。認知行動療法は、「認知機能という能力に問題がないこと」を前提に考えられた手法であるため、発達障害や知的障害を持った子には効果が期待できない事が多いからである。そして、実際に現場で困っているのは、そういった子供たちなのである。
 
著者は、ある少年に、直線や点で構成された図を渡し、それを描き移す課題を出した。彼は一生懸命に取り組んだのだが、その結果、全くその図を写せず、歪んだ形でしか認知できていないことが判明した。また、丸い円をケーキに見立て、三人で同じだけ食べるように切る、という課題に対しては、表紙絵のようにしか切れず、ベンツのマークのような切り方にはついに到達できなかったという。
 
少年たちに、どうして非行をしたのかを尋ねると必ず返ってくるのが「後先のことを考えていなかった」という口を揃えたような答えであるという。セットとしてこれからは後先のことを考えるように行動したい、という目標が掲げられる。後先のことを考える、とは、計画力のことであり、「こうすれば、こうなる」が想定できるということだ。
 
非行少年に共通する特徴は
 
見たり聞いたり想像する力が弱い。
感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。
何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い。
自分の問題点がわからない。自信がありすぎる、なさすぎる。
人とのコミュニケーションが苦手
(それにプラスして) 力加減ができない、身体の使い方が不器用
 
であるという。ああ、こう書いていて、自分の中に、あるいは周辺に、そういう人はたくさんいる、と思う。そして、そのために、本当に困ったり、人に迷惑をかけてしまったりしているものなあ、と自省も含めてしみじみ思ってしまった。
 
・・・とこのように多くの指摘があって、結果、著者は人口の十数%いるという「境界知能」の人々が如何に困っているかに焦点を当て、彼らに子ども時代から必要な支援を行うことで非行を防ぐと提言している。提言しているのだが、前半部分の非行少年の実態調査があまりに衝撃的なものが多いので、結局、非行少年は知的障害があるのだ、と受け取ってしまいかねない危うさも感じる。
 
解決策として、著者は「ではどうすれば?」という章以降で、「自己への気づき」と「自己評価の向上」のための治療教育を提案する。学校教育の中でも、朝の五分間を利用してぜひ「コグトレ」という訓練を行うよう呼びかけている。本書の趣旨はまさしくここにある。くれぐれも読み違わないように、最後まで注意深く読むべき本だと思う。
 
 
 
 
 

2019/10/23