シンヂ、僕はどこに行ったらええんや

シンヂ、僕はどこに行ったらええんや

2021年7月24日

47

「シンヂ、僕はどこに行ったらええんや」喜国雅彦 双葉社

 

表紙写真といい、題名といい、命の尊さを訴える大感動モノ・・って印象である。が、この表紙写真の人、シンヂ氏は、本文にはそれほど登場しない。どこに行ったらええんや、というほど途方に暮れた感も特にない本である。どうしてこういうことになったかは、前書きに書かれているが、もうちょっと考えろよな、と思わないでもない。感動巨編だと思って手に取る人もいるかもしれないし、逆に、だからこそ敬遠する人もいるだろう。どっちかって言うと私は後者だったし。
 
これは古本探偵、喜国雅彦氏の東日本大震災後のボランティア報告日誌である。喜国さんは本業は漫画家だが、わが家では古本探偵としての認知度のほうがはるかに高い。実際、被災地に行っても、古本屋に行きたがっている彼である。
 
シンヂというのは、アウトドア義援隊というボランティアグループをまとめている大阪のおっちゃんである。彼がいるから、現地に行ってもなんとかなるだろう、と奥さんと二人で週末などに何回か喜国さんがボランティアに行って、民家の床下の泥を搔き出したり、タイヤ屋のタイヤを洗う手伝いをしたりした話である。表紙で抱かれている犬は、震災の避難中に生まれた子犬。その犬の養子先を見つけたりもしているわけだ。
 
当時、マスコミは、下手にボランティアに行っても現地では役に立たない、むしろ迷惑であるという報道をしていた。が、行けばやっぱり役に立つのである。報道と、口コミと、本当のことは、どれもちょっとずつ違う。現地にいる信頼できる友達の言うことを聞くのが一番正しい、と考えた喜国さんは正解だった。
 
あの頃のことを、私たちは、もうずいぶんと忘れている、と思う。この本を読むと改めてそう思う。当時、関西にいて、全く揺れを感知できなかった私だから余計にそう思う。あの時にあったこと。失われたこと、苦しんだこと、傷ついたこと、そして、助け合ったこと。沢山の人がそれぞれの立場でそれを記憶し、記録しておくことの意味を思う。
 
この本は、少し客観的に、でも、現場で本当のことを見た、一緒に頑張った、苦しみも味わった日々が描かれている。できることを、出来る人がすることの意義を教えてくれる。古本探偵、頑張った。よくやった。

2014/6/30