スクリプターはストリッパーではありません

スクリプターはストリッパーではありません

2021年7月24日

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「スクリプターはストリッパーではありません」

白鳥あかね 国書刊行会

 

スクリプターという仕事を知らなかった。役者がセリフを忘れたときにこっそり教えてやる人、とかそんなイメージしか持っていなかった。
 
映画は、バラバラに撮影されたカットをいくつもいくつも組み合わせ、編集して作られる。撮影は順番に行われるわけではない。スクリプターは、様々なシチュエーションで撮られたワンカットワンカットにナンバーを付け、俳優の動きやセリフ、撮影の日や場所、録音、カメラサイズとワーク、音処理やタイムなどあらゆる情報を記録する。と共に、シナリオ全体の流れを念頭に前後の流れを確認し、衣装、持ち物、メイクから俳優の演技に至るまであらゆるチェックを行うウォーキング・ディクショナリー的役割を担う。
 
筆者は私の母とほぼ同い年、経歴六十年となる名スプクリプターである。何人もの弟子を育て、スクリプター協会を設立し、いくつかの映画祭を立ち上げてもいる。たくさんの映画監督や俳優と仕事をし続けてきた日本映画会の生き字引である。
 
日活で仕事を始めた人なので、日活ロマンポルノにもかなり参加している。この本の題名になったのは、「濡れた欲情 特出史21人」の撮影エピソードである。ストリッパーの映画なのだが、フィクションとドキュメンタリーが渾然一体となった融通無碍な雰囲気があったそうだ。撮影打ち上げの日に、誠心誠意尽くしてくれたストリッパーの人たちに感謝して最後くらいは私たちが踊りましょう、とスタッフが次々に脱いで踊り、筆者も気持ちよくなって上半身脱いで踊ったという。全部脱いじゃおうとしたら、スクリプターの師匠が題名と同じことをいって諌めたという。
 
ストリッパーのお姉さんたちは、いつも社会的に一段低く見られていた自分たちをまったく対等に扱ってくれたのは映画のロケ隊が初めてだと涙を流して喜んでくれたそうだ。それを思い出すと、今も涙がでると筆者はいう。
 
日活ロマンポルノには、実は隠れた名作がたくさんあると私も聞いている。そういえば、学生時代に金子光晴の愛人を描いた「ラブレター」というロマンポルノを見に行ったことがある。静かな良い映画であった。
 
筆者は今ではスクリプターとしての仕事はしていないそうだが、映画祭などには参加しているという。亡くなってしまった映画監督の秘話など、まだこの本に描かれていないエピソードも山ほどお持ちだろう。長生きしていただいて、また本を書いてもらいたいと思うような興味深い内容であった。

 

 

2015/8/7