タラント

タラント

129 角田光代 中央公論新社

角田光代の新作。読売新聞に連載していたらしい。とても分厚い本。

何となくやる気のない人生を送っている中年女性と、戦争で足を失ったその父と、不登校になりかけている甥。それぞれの若い頃と現代の話が交互に入り混じって話は展開する。しかも、難民問題や、少年兵士の問題、パラリンピックに、危険地域にジャーナリストが潜入し拉致されたことでの炎上など、様々なことが絡み合うから、内容は結構重い。新聞連載だったせいか、展開もゆっくりで、ドラマティックではない。正直言って読みやすい本ではなかった。が、読み終えて何か解放されたような気持になった。

学生時代、ボランティアサークルでネパールに学校を作りに行ったり、難民キャンプに行ったりしていたみのり。当時の仲間はカメラマンになったり、ジャーナリストになって、難民や子供の貧困などの問題に取り組んでいたりする。けれど、彼女はそういった問題から離れ、ケーキ屋に勤め、そこですら、責任ある仕事を任されることを拒否している。仕事から逃れるため実家に帰ると、学校に行きそびれている甥と、足のない父が淡々と生きている。そんな彼らとのかかわりの中で、みのりは、様々なことに気が付いていく。

若い頃は、何でもできる気がしていたなあ、と思う。なんでもできるのに、なんで私はこんなことをしているんだ、といういらだちもあったし、社会で生き生きと活躍している友人を見ると羨ましいと思うこともあった。いつか私も、と思うこともあった。けれど、時は経ち、私も結構な年齢になった。そして、あんまり後悔していない自分に気づく。割に私、頑張ったじゃん、と素直に思えるようになっている。当たり前の日常を生きながら、できることをやり、できないことはしなかった。それでいい、と思えるようになった今に、私は結構満足している。

この物語もそうだ。やりたくないことからは逃げてもいい。でも、やりたいことを見つけたら、それを一生懸命やればいい。正しいとか正義だとかきれいだとか、そういうことではなく、自分の持っているもの、自分が欲しいものを見極めて、それに真正面から向き合えばいい。人に褒められるとか脚光を浴びるとか、そんなことはどうでもいい。自分の内にあるものを信頼し、大事にすればいい。そういうことなんじゃないかなあ、と思える、そんな本だった。だから、派手じゃないし、ワクワクドキドキするわけでもないけれど、じんわりと心にしみて、読んでよかったなあと思ったのだった。