ハイパーハードボイルドグルメリポート

ハイパーハードボイルドグルメリポート

2021年7月24日

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「ハイパーハードボイルドグルメリポート」上出遼平 朝日新聞出版

もともとはテレ東の深夜番組だという。「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ?」という企画。普通、踏み込めないようなヤバい場所でヤバイやつらの食事をレポートする。作者はひとりでカメラを担ぎ、格安チケットで世界中に飛ぶ。ヤバい奴らの食卓は美しく輝いていた、テレビでは伝えきれなかった話を一冊にまとめたのがこの本である。

リベリアの人食い少年兵。台湾のマフィアの豪華な宴会。ロシア、シベリアのカルト教団信徒の家庭料理、ケニアゴミ山のスカベンジャー飯。どれも食べ物はとろけるように美味しそうであった。作者はどれもを実際に食べている。

知らなかったことがたくさんあった。リベリアという国は、アメリカの奴隷解放で自由を得た「文明化された黒人」がアフリカ大陸に戻って作った国だという。でも、そこにはずっとその土地に住み続けてきた「文明化されていない黒人」ももちろんいて、その二者が互いに互いを否定しあって内紛が続いた。親を殺され、薬を与えられ、兵士として育てられた少年兵たちが、内紛が終わったあと、どうやって生きているか、食べているか。現実が突きつけられる。

台湾マフィアは豪華な食事をする。体中の入れ墨を自慢し、日本人が入れ墨を入れるときに如何に痛がるかを笑ってみせる。人は殺すが、道義に反することはしない、という。で、道義ってなんだろう・・・。

シベリアのカルト教団。彼らは一様に幸せそうだ。幸せそうなところしか見せない。北朝鮮を旅するみたいに、ベッタリと良いところ、美しいところしか見せない。闇の部分はどこへ行ったのか。陰影のない世界の不気味さが逆に浮き彫りになる。が、家庭料理はどこまでも暖かく、美味しい。そこにズルズルと引き込まれそうになる危うさがある。

ケニアのゴミ山。路上の少年たちは、シンナーを常に吸引し続ける。石井光太の本を読んだとき、アジアのストリートチルドレンが僅かなお金を手に入れると、それでシンナーを買ってしまう現実を知った。食べ物じゃないのか?と衝撃であった。が、私は初めて知ったのだが、シンナーは、空腹感をなくし、食欲をなくさせるのだ。食べなくても多幸感が得られるから、だからこそ、彼らはシンナーを買う。ご飯よりシンナー、じゃなくて、シンナーはご飯の代替品にもなってしまうのだ。

石井光太の作品は、じっとりとした湿り気とともに胸に染み込んでくる。が、この本は同じようなテーマを扱っていても、もっとドライで、距離感がある。それが読む方にとっては多少、楽である。楽だからいいかどうかはわからんが。

ところで、本の表紙写真、左上に数字を振っているのは、その年度の読書冊数を知りたいという便宜的なものなのだが、最近、その数字が270とかになっていて「え?そんなに読んだっけ?自粛してたからか?」と不思議になった。で、確認してみたら、なんとあなた、59の次が160になっていたというお粗末。それどころか、95が二回続いたり、時に数字が減ってみたり、無茶苦茶なのである。で、地道に直したのだけれど。「こんなことすら管理できないのか、私は!」と衝撃であった。前にもブログ読者から遠慮がちに「数字、間違ってますよ」なんてご指摘いただいたこともある。もう、なんでこんなことすらできないんだ、私。というわけで、直しましたです、はい。もし、また間違っているのに気づいた方は、どうぞ教えて下さいませ。とほほ。

2021/3/5