マイケル・ジャクソン

2021年7月24日

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「マイケル・ジャクソン」西寺郷太 講談社現代新書

私はマイケル・ジャクソンに関しては、「This Is It」以来のファンである。つまり、彼の死後のファンなのである。この本は、マイケル・ジャクソンを心から敬愛する西寺郷太が、彼の生涯を様々な資料を駆使して誠実に追ったものである。彼は「はじめに」の中で、彼の死後、「This is it」による全く新しい層のファンが世界中で日ごとに増えていっていることを指摘している。まさしく私もその中のひとりである。

貧しい労働階級の黒人家庭に生まれたマイケルが、幼い頃から父のスパルタ教育によって兄弟グループ「ジャクソン・ファイブ」のリードシンガーとなり、独立し、賞賛を浴び、その後少年虐待疑惑での糾弾を受け、完全無実の判決を勝ち取ったのに、それはろくに報道されず、結婚して父となり、亡くなり、「This is it」で再評価を受ける。その道のりを負いながら、私は何度も泣きたくなった。あの溢れる才能が、なぜこんな形で中断されねばならなかったのか、なぜもっと正しく評価されなかったのか。

ジャクソン兄弟は厳しい父にしごかれ、歌やダンスで間違うと、ベルトのムチで叩かれ、壁に叩きつけられ、何日もの間その存在を無視されたという。父親らしい暖かい言葉などかけられたこともなかったという。母親はそんな父親を止めることもできず新興宗教にのめり込み、マイケルも幼いころは母親と一緒に変装して布教活動をしていたという。歪んだ家庭だったのだなあ。

マイケルは、英国オックスフォーフォード大学の講演で自らの子育てに関してこのように語っている。
「(子どもたちが私のことを)『お父さんは彼が直面する特殊な状況の中で出来るだけのことをしてくれた、彼は完全な人間ではなかったかもしれないけれど、暖かっくてきちんとした人だった。そして世界中のすべての愛を私たちに与えようと頑張ってくれた』、そんなふうに考えてくれるといいな、と祈っているんです」

人の幸せってなんだろう、と思う。溢れる才能を持ち、巨万の富を得ても、手に入らない物はある。でも、溢れる才能が、世界中の人に幸せを与えることも、また、真実なのだ。マイケルが天国で幸せだといいなあ、と思わずにはいられない。

(引用は『マイケル・ジャクソン』西寺郷太 より)

2018/2/22