一発屋芸人列伝

一発屋芸人列伝

2021年7月24日

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「一発屋芸人列伝」山田ルイ53世 新潮社

 

2017年「新潮45」に連載していた記事に加筆、まとめたもの。登場する「一発屋」芸人はレイザーラモンHG、コウメ太夫、テツandトモ、ジョイマン、ムーディ勝山と天津・木村、波田陽区、ハローケイスケ、とにかく明るい安村、キンタロー。髭男爵。
 
10年ほど前から、お笑いにハマった。今思うと、子育ても多少一段落し、自分の時間が持てるようになって、退屈していたのかもしれない。当時のM-1は大変な勢いがあって、予戦第一戦から名も知らないような芸人をチェックしたりしていた。まだヒリヒリするような危うさのある千原ジュニアに入れ込んだり、ルミネtheよしもとや花月に見に行ったりもしていた。
 
思うに、お笑い芸人という仕事には中毒性がある。どんな惨めな出来事も笑いに昇華できるし、その途端に、暗闇が輝きに変わる。芸人になる人の多くは、大きな闇を抱えていて、だからこそそれを昇華させる喜びに震え、依存し、生業としていくようなところがある。ぎりぎりの崖っぷちをふらつきながら歩くような危うさ。それが、突然魅力として開花するような怖さがある。
 
一発屋は、そんなお笑いの危うさを如実に表す存在である。ふと多いついたアイディアが、ある日脚光を浴び、もてはやされ、そして急激に忘れ去られ、捨てられていく。けれど、その栄光を一度味わったら、忘れることはできない。そして、もう一度あの成功を、としがみつき、やめることが出来なくなる。
 
自らもそんな一発屋の一人であるルイ山田53世は、そんな一発屋芸人にインタビューをし、彼らのこれからと行く末を描き出す。その文章は、非常に知的で明晰で、愛もある。この人、芸人より文筆を仕事にしたほうがいいんじゃないか。
 
取り上げられた中には、一発屋と呼べない、0.5発屋程度の芸人もいる。それでも、夢をずっと追っちゃうんだなあ。かと思うと、テツandトモなんかは各地の営業だけで大成功を収めていて、あれは一発屋とは呼べないのではないか、とも思う。
 
女性芸人はキンタロー。だけ。なぜエド・はるみが登場しないのか、と思ったが、たぶん断られたんだろうなあ。彼女は自分を一発屋だとは認めないような気がする。自分でシフトチェンジしたのよ、と考えるようにしているのだろう。女性の方が生真面目で、自分で自分を笑いのめすのがちょっと苦手な感じはする。
 
しばらく休業せざるを得なかったナイナイの岡村、本当に鬱だったヒロシ、などうっかりすると芸人の闇は本人を飲み込んでしまう。それは、売れる売れないだけの問題じゃないかも。最近は、バカリズムが追い込まれている感じがして心配だ。彼、仕事しすぎじゃないかなあ。

2018/12/18