京職人ブルース

京職人ブルース

2021年7月24日

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「京職人ブルース」米原有二 京阪神エルマガジン社

 

蒔絵師、塗師、真田紐師、生地師、表具師、石工、足袋職人、鏡師、友禅職人、鬼師・・・。あらゆる種類の京職人の現場に通い、取材し、雑誌「エルマガbooks」に連載した記事を加筆修正したもの。
 
例えば西陣織を作り出すには、織機の設計組み立てをする機大工、経糸を整える綜絖師、紋意匠図を描く紋意匠師、織手が常に手にしている杼を作る杼職人・・などの職人が必要となる。その杼をつくるためには、杼が滑らかに移動するためのローラーとなる杼駒を作る木工職人、杼の両端を保護する真鍮製の杼金を作る金属工芸職人がいる。また、その杼本体に緯糸を通す緒に取り付けられた磁器製のガイドを用意するのは清水焼の職人である。という具合に、気が遠くなるほど多く職人の力が集まって西陣織は作られる。
 
それと同じように、あらゆる京都の工芸は、多種多様、様々な職人さんに支えられている。ある職人は、会社勤めならとっくに定年を過ぎた年齢で、視力も落ち、手も思うように動かないが、後継者も同業者もいなくて国内の需要をたった一人で背負っている。
 
これは今のうちにしっかり見ておかないとダメなんじゃないか、と工房に通いだしたのが、筆者の工芸、職人取材の始まりだったという。京都の伝統産業は殆どが細かく分業されており、看板などなくても、一人の職人から次の職人へと数珠つながりになって紹介され、幾つもの工房を訪ね歩くこととなったという。
 
驚くような細分化された役割や職人技の凄さ、伝えられていく伝統の貴重さと、それが日常に溶け込んでいる京都という場所の独特さにあっけにとられる内に読み終えた。願わくば、この伝統工芸が途絶えることなく次の世代へと伝えられてほしい。不器用な私には想像を絶する世界だが。

2016/12/7