池波正太郎の銀座日記(全)

池波正太郎の銀座日記(全)

2021年7月24日

45
鬼平犯科帳を何冊か読んだことがあるけれど、私はこの人の熱心な読者ではない。けれど、この日記は、とても面白かった。

池波さんが六十を超えた辺りから、八年間の日記だ。人の日記を読むのは面白いなあ、と私は思う。なんでもない日常が書かれているようでも、それは、その人の日常なので、他人から見れば非日常だ。それこそが面白い、と私はつくづく思う。

還暦を過ぎて、池波さんは実にご健啖だ。山の上ホテルで天ぷらを食べ、野田岩でうなぎを食べる。子羊を食べ、寿司を食べ、鴨を食べ、カツレツをこよなく愛する。そして、恐ろしいほど毎日歩き回る。品川から銀座へ、神保町へ、杉並へ、一日にどこまで回る?と思うほどのフットワークである。

買い物もよくされる。銀座のデパートで、「溜まっていた買い物を済ませる」という記述がよく出てくる。一体、何を?と思うほど、よく買い物をされている。ヨシノヤで靴を買い、トラヤで帽子を買い、高田の馬場のフルヤ万年筆店(私の思い出の店でもある!!)で万年筆を修理する。

そして、しょっちゅう映画の試写に行き、歌舞伎や芝居を観、鋭い感想を述べる。昭和六十年あたりからなので、私の記憶にもある題材が多く、おお、なるほど、と思うことがたくさん出て来て、感心する。

その池波さんが、周囲の人々がすこしずつ病み、亡くなり、自分も健康が衰えていくさまを、寂しく感じ取りながらも、淡々と受け止めていくのが、日記の後半だ。それがまた、しみじみと胸にせまる。

しっかりと自分の舌と眼と耳で、良いものを見分けていた池波さん。こういう老人になれたらなあ、と憧れつつ、私はオバサンを生きて行く。

2011/5/30