十二月の十日

十二月の十日

161 ジョージ・ソーンダーズ 河出文庫

岸本佐知子の翻訳だと知って、即読み。そして、いつも通り、彼女は裏切らない。今まで読んだことの無いような物語だった。

また旅に出た。ヘロヘロになった。その話はそのうち書きます。で、移動の車内、機内のお供に連れて行った本の一冊がこれ。引き込まれたし、なんだこれ、と思った。すごーく怖いけど、どこかユーモラスで、わかるわかる、と思ったりもするし、ぞっともする。登場する人物はみんな、あんまり立派じゃない、まるで私みたいな人たちで、だからこそ何らかの選択を求められた時、一緒に逡巡する、戸惑う、悩む、混乱してしまう。

十篇の短編が集められている。一番心をわしづかみにされたのは「スパイダーヘッドからの逃走」だ。これはどこかの未来のディストピアの話なんだけど、実は今ここにある物語みたいにも思える。私は、誰かや何かに支配されたり、依存したり、抑圧されたりなんかしないぞと思っているのだけれど、実は何かに支配されたり操作されたりしているのかもしれない。だって私はそんなに強くない。そして、強くないことを知ってるからこそ、依存も抑圧も怖い。ということを思い出す、思い知らされる。自分が何をしているかわかっていて止められないこともある。でも、その中で何とか何かを選ぼうとしたり、自分を押しとどめようと必死になることはある。その時、私はどうするんだ?

「センプリカ・ガール日記」には度肝を抜かれた。貧乏な主人公が娘の友達の誕生日パーティに家族で御呼ばれして、その家や庭のすごさに打ちのめされる。見たことも無いSG飾りが飾ってあって、揃いの白いスモックがひらひら風に揺れている。口には出さないけれど、それをうらやんでいる娘のために彼は奮闘するのだが。SG飾りって、何。読めばわかります。あー。こんな小説、初めて読んだわ。

ごく普通の感覚、感情が打ちのめされるような物語。どうやって考えて書いたんだ?読み終えて、しばらくボーっとしてしまった。旅は、日常からの開放をくれる。でも、この本一冊でも、結構全然違う場所に連れていかれてしまった感じ。心がしっかりしているときに読んだほうがきっといいと思う。