危険な話

危険な話

2021年7月24日

「危険な話」広瀬隆 八月書館

その昔、我々夫婦が結婚した頃に、(もう、大昔のことですね。)広瀬隆さんという人が「危険な話」という本を出して、かなり売れました。
私たちは、それを読んで、原子力発電の恐ろしさを知り、友人にもその本を勧めました。

共感してくれた人もいたし、何を言っているんだ、多少の危険があっても、人間は科学的に進歩しながら未来を目指すのだ、という人もいました。
反原発に反対し、(ややこし言い方ですが)そうやって人間は進歩し続けてきた、といった友人は、有名な作家になりました。
人間の歴史とは、そういうものだ、といった彼女の言葉は、今振り返ると、とても深いものです。
何も分からなかった私より、ずっとすべてを見通した上で、言っていたのかも知れません。

その頃、原発の恐ろしさに共感してくれていた友人から、夜にメールが来ました。
怖い、と書いてありました。

私も怖いです。
これからきっと起こるであろうことを思うと、とても怖いです。

「危険な話」を読んだ頃は、原発の怖さを確信していたのに、この数十年の間に、私も忘れかけていました。
それまでには、たとえば、「生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」という映画も見ました。
泉谷しげるが、原発の下請け労働者を怪演していました。
忌野清志郎の「カバーズ」も聞きました。
「サマータイム・ブルース」は、反原発の歌です。
その曲でも、泉谷しげるが、バックで「出てこんかい、勝負せんかいおらぁ!」と凄んでいました。

最近、ウォーキングしながら、それを聴いていたんです。
ものすごくアグレッシブな曲ばかりでした。
それを聞きながら、毎日歩いていたんです・・・・。

忘れていました。本当に、忘れて、のほほんと生きていました。
友人がメールをくれて、あの本を読んだ時の怖さを思い出しました。

あの頃、朝まで生討論で、原発の安全神話を説いていた科学者や東電のエライさんたち、評論家の皆さんは、今何を思っているのでしょう。
広瀬さんは、どう思っているのでしょう。

ほんとうに危険な場所で働かされるのは、下請け労働者です。
いま、この危機に瀕して、一体誰が、原子炉に一番近づいて、作業をしているのでしょう。

あの本を、もう一度読み返そうかとも思ったけれど、本棚の奥深く、どこに眠っているかもわかりません。
そして、私も、怖さを何処かに眠らせていたのです。

あの頃、じゃあ、君は、電力消費を今の半分にできるのか、と問われて、よし、エアコンなんて使わないぞ、できるだけ、節電して、少量の電力で生きていってやる、と思っていたのに、いつの間にか、夏はエアコンつけっぱなし、パソコンに日がな一日向かい、電気をこうこうとつけ、花粉の季節は、室内乾燥機をガンガン稼動させる生活があたりまえだと思うようになっていました。
そういう自分に、今頃気付かされたのです。

自分の傲慢に、こんな恐ろしい事故で、やっと気づいた私です。

2011/3/17