困ってるひと

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2021年7月24日

67 大野更紗 ポプラ社

私の好きな辺境作家、高野秀行プロデュース(無料)。「ポプラビーチ」というサイトに連載されている時から、ちょこちょこ読んでいたのだけれど、出版されると聞いて、これは買って読まねば、と思った。

大野更紗ちゃんは、ビルマ難民援助に燃える大学院生(上智)にして、難病患者である。日本に数人しかいないであろう自己免疫系疾患にかかり、ものすごく「困っている」のである。

これは、闘病記ではないのだけれど、何しろ作者が難病にかかってそれと戦っていることは確かなので、必然的に闘病の記録が多くなってしまう。けれど、闘病記ではない。更紗ちゃんという一人の女性が、絶賛生存中である日々の歴史、思いが、客観的に鋭くかつ明るく描かれているのである。

置かれている状況は困難である。しかし、聡明な彼女は、その中に浸りきってはいない。泣いたり喚いたりはするが、同時に自分を外から見つめる冷静さを失わない。そして、どこか冷めて、シニカルに、そして、ユーモラスに、自分を観察している。他者への目も、冷静だが、温かく、想像力に満ちている。

読む側も、ただただ同情に浸るのではなく、ともに状況を受け止め、頑張れと思いつつ、社会の歪に驚き、怒り、でも、何とかやっていこう!と元気をもらうのである。

それにしても、現在の医療状況って、こんなだったの!と驚いてしまう。痛くて苦しくて普通の生活を送るのが困難で、医療援助がなければ明日にでも死んでしまいそうなひとを、病院から放り出すようなシステムが、平気でまかり通っているなんて。

だとしても、更紗ちゃん、頑張れ。と、私は心から思うのだ。すごい本を出したよ、あなたは。健康な私が、難病で日々苦しむあなたから、いっぱい元気をもらった。同情じゃなくて、前向きの明るい勇気をもらえた。

更紗ちゃん。何とかやっていこうよ。あなたが、少しでも楽になる日が来るのを、私は祈ってる。あなたのこと、みんな応援したいと思うよ。依存するんじゃなくて、あなたの言葉を受け取って、ちゃんといろんなモノを、みんなもらってる。その対価として、あなたも助けを受けていいと思う。

頑張れ。絶賛生存中の更紗ちゃんに、絶賛生存中の中年オバサンは、心からエールを送る。
2011/7/3