女と刀

女と刀

181中村きい子 光文社「本の栞にぶら下がる」に紹介されていた本。鶴見俊輔が解説を書いているというので、その解説だけでも読めればいいやと思って借りたのだが、いやはや強烈な本であった。引き込まれてしまった。

古い本である。昭和41年発行。県立図書館の書庫に眠っていたらしく、しみあり、黄ばみありだったが、型ずれしているところを見ると、相当の人数に読まれたものと思われる。第7回田村俊子賞を受賞しているというから、当時はきっと評判の本だったに違いない。

西南戦争終結から五年後に生まれた薩摩藩外城士の娘キヲが主人公である。薩摩藩独特の士族意識と激しい男女差別の中で育った、気性の激しい女性の一生が描かれている。あまりにもエネルギッシュで我の強い彼女の生き方に、まさしく振り回された。

鶴見俊輔は「私は、男を軽蔑するだけの思想の力を持つ女性が好きだ。『女と刀』の主人公は、まさに、そういう人である。」と書いている。確かに、彼女は齢七十にして年老いた夫に「ひとふりの刀の重さほども値しない男よ。」と言い捨てて、家を出ていく。それがオープニングである。そこから、どうしてそこに至ったかが描かれる。何とも苛烈な生涯である。自我、わが想いをどこまでも貫いて、それでも踏みにじられる女性としての立場をもってしても、その場その場で自分が出来る限りのことを力づくで行い、周囲を動かし、決して譲らない。思想も行動も、実は矛盾に満ちているし、他者への想像力や思いやりというものはみじんもない。が、彼女をそうせしめた社会の在り方、周囲の環境の酷薄さもまた、同時にありありと描かれており、どこかで、無理もないことよ、と共感せずにはいられない。こんな人が身近にいたら、さぞ迷惑だろうし、家族は困り果てただろうなあとは思うのだが、一方では爽快感もある。想像を絶するほどの烈しい生き方をした、ただの主婦に過ぎない女性の物語なのだが、何と深く強い人なのか。

登場するエピソード一つ一つがあまりに衝撃的すぎて、ここに列挙してしまいたくなるのだが、それではネタバレになってしまう。次々と起きる出来事が、キヲという人物の人となりを体現していて、読むほどに、すっかり打ちのめされてしまった。

先ごろお亡くなりになった山田太一が脚色し、木下恵介がテレビドラマ化したという。どんなドラマに仕上がっていたのか、見てみたい気もする。とにかく、すごい本であった。嘆息。