字が汚い!

字が汚い!

2021年7月24日

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「字が汚い!」新保信長 文藝春秋

 

編集者でライターの新保信長。ってか、この人、南信長(漫画解説者)なのか。そっちの名前のほうが馴染みがあるぞ。
 
高橋秀実に芸風がにてる、と言ったら夫が違うと言った。高橋秀実のルポには発見があるが、この人にはそれがない、と。いやいや、読めばそれなりに発見もありますがな。自分の弱点に自虐的になりながら、その克服のためにあれこれ工夫してみるが、それほどうまくいかない、その過程をルポするあたりの芸風が似てると思った。でも、読ませる力は高橋秀実の勝ちですな。
 
作者は編集者なので、企画を立て、大物に直筆の手紙で協力を仰ぐのだが、その手紙の文字があまりに汚いというか、子供っぽくて拙すぎて、どうも分別ある大人の字には見えない。というわけで、企画倒れとなった例もあるという。実際その手紙の事例が写真で載っていたが、これをもらっても信用出来ないよなあ、と思わず頷いてしまった。
 
というわけで、あの手この手で字の問題を解決すべく試みた記録がこの本である。他者に目をやれば、いかつさで定評のあるゲッツ板谷が女子高生みたいな字を書いていたり、画家の山口晃氏が字というよりはデッサンの一環として字を捉えていたりする。いろいろな作家、著名人の字も事例に挙げられていて、興味深い。作者はペン字練習帳を試してみたり、ペン字教室に通ってみたりして、じょじょに字体が変わってくる。各章ごとの扉に「乱筆乱文にて失礼致します。新保信長」と書いてあるのだが、確かに少しずつうまくなってはいる。あとがき最後の一文も直筆で、最初の協力要請の手紙から考えると、かなり良くなっているのがわかる。上手い下手というよりも、人間性が伝わってくるような文字という意味でだが。
 
参考文献として、様々な「字がうまくなる本」の題名があげられている。これが「30日できれいな字がかける」はまだわかる、「かんたん!100字できれいになる」もそうかなあとは思う。でも「練習しないで、字がうまくなる!」はさすがに違うぞおいおい、と思う。でも、こういう題のほうが売れるんだろうなあ。
 
話題が外れてしまうが、結局みんな楽して効果がほしいのだよね。「これ一冊だけで全てがわかる」みたいな本が受けるんだもの。図書館の司書さんが「これさえ読めば頭が良くなる」みたいな題の本が、いま大人気で順番待ちがすごいと言ってらした。んなわけあるか!!って思わないのか、みんな。
 
更に話題は逸れてしまうのだけれど、図書館で数ヶ月に一度開かれている読書会の参加人数がどんどん減っている。児童書の読書会なんだが、参加者の子どもが大きくなるとみんな働きに出てしまうので、午前中に図書館で開催するのに無理があるのかも。たまに新規参加者が来ても、偉い人の講演が聞けるのかと思ったら、おばちゃんたちが集まって勝手なことを言い合っているので勉強にならないとがっかりされてしまったりもする。絵本をテーマにすると、読み聞かせの会と勘違いされることもあって、感想を言い合ったりするんです、というと帰ってしまう。どうしたら人数を増やせるかなあ、と残された少数で頭をひねっている。
 
ものすごく簡単な方法として、「子供の成績がぐんぐん上がる!児童書の読書会」と銘打ったら大勢集まるよねー、という話になった。いやいや、そこまで魂は売りませんが。「こどもを本好きにするヒントをつかめる読書会」程度なら許せるか?なんてちょっと真剣に話し合っちゃうあたりが悲しい。でも、そもそも読書ってそういうことじゃないのよね、国語力のために子供に本を読ませたいわけじゃないものね、とすぐ冷静になる私たちではあったが。
 
字を綺麗に書くのも、練習しないでって訳にはいかないが、技術ばかりではない。丁寧に、ゆっくり、心を込めて書くことが大事である。基本を見失わないことは、何にでも大切ってことで。

2017/6/1