彼女に関する十二章

彼女に関する十二章

2021年7月24日

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「彼女に関する十二章」中島京子 中央公論社

「かたづの!」の中島京子さんの作品。あれも良かったが、これもいいなあ。嫌な人が一人も出てこない物語って、やっぱり読んでいて気持ちがいい。

伊藤整の「女性に関する十二章」がこの本の底本としてあるのだが、別に読んだことがなくても全然困らない。それを底に敷いて、ここまで現代の中年女性をいきいきと描き上げられるのか、と感動してしまう。

主人公の聖子さんは、まさに私とシンクロする世代なので、とても他人事とは思えずに読んでしまった。息子は独立したけど、これからどうなるかわからないし、自分は更年期にさしかかって、なんか不調だし。

でも、そんな中でも聖子さんはとても前向きだ。心配したり悩んだりすることはあるけれど、基本、なんとかなる、なんとかしようって思っている。これって、ある種おばちゃん特有の思考かも知れない、と思ったりもする。年をとると余計なものが削ぎ落とされていくから、おばちゃんはおばちゃんたりえるのだし、だから前向きにだってなれるのだ。

脇役として二回しか登場しない占い師がいい味を出している。聖子さんには思わぬ出来事が待ち受けているのだが、本人はそれほど翻弄されずにスイスイとその中を通り抜ける。読者は気づくんだけどね。それがまた、気持ちいいんだな。

聖子さんの夫もなかなかいいやつだし、ゲイの弟も、無愛想な息子も、プーのおじさんも、それぞれに人間味があって、いい。そして、世の中って、実はこんなふうにみんなそれぞれにいい人ばかりで構成されているんじゃないか、ってちょっと思いたくなるから嬉しい。それって、この物語のすごい力だ。

「海街diary」とか、普通に登場しちゃうのが、これまた、愛読者には嬉しい小説なのであった。が、それは普遍性を損ねないのか?「海街diary」も歴史に残る作品だから、大丈夫なのか?なんてちょっと考えてしまった。

2016/7/21