旅のつばくろ

旅のつばくろ

2021年7月24日

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「旅のつばくろ」沢木耕太郎 新潮社

「ニッポン脱力神さま図鑑」同様、ずっと積んだままにしてあった本。やっと読み終えた。なぜ積んだままだったかというと、この本は、もともと新幹線の中で読む「トランヴェール」というJR東日本の小冊子に連載されていたエッセイで、私はそれをオンタイムでかなり読んでいたからだ。しばらくの間、しょっちゅうしょっちゅう新幹線に乗らねばならない時期があって、飽きるほど何度も何度も同じエッセイを読んでいた。読み返しても面白いよなあ、なんて感心もしていた。

そんな日々から時間が経って、今、改めて読み返しても非常に面白い。作家沢木耕太郎の原点とも言える16歳の頃の日本の一人旅や20代の頃の世界放浪旅を振り返りながらの、思いつくまま気ままな旅の話は本当に面白い。そして、驚くほど沢木耕太郎の文章は完結でわかりやすく、すっと頭に入ってきて、しかも情景がきちんと目に浮かぶ。そのことに改めて気づくのだ。

前田のお姫様だった酒井美意子さんのインタビューをないがしろにしてしまった後悔の話はこのブログでも書いた。少年だった彼が駅のベンチで一夜を過ごしたときに浮浪者の男にされた親切の話は心を打つ。沢木耕太郎が性善説に立つのはこのときの経験が元になっているという。少年時代にそんな経験ができたことの尊さを思う。井上陽水は、空港まで行って、様々な便名を眺めながら、さて、どこへ行こうかと考えることもある、というエピソード。ああ、そんな資力があったら。そうしたら、私はどこへ行くのだ?などと妄想する。今は無理だけど。

旅の本を読むと、旅に飢えている自分に気づく。ああ、どこかへ行きたい。知らない街を歩いてみたい。

2021/2/15