本屋、はじめました

本屋、はじめました

2021年7月24日

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「本屋、はじめました」辻山良雄 苦楽堂

荻窪に、Titleという名の本屋がある。私は三度ほど行ったことがある。

本屋は危険だ。行くと知らぬ間に荷物が増えている。本は増殖し、居住空間を侵害し、引っ越しを困難にする。だから、できるだけ近づかないようにしている。だのに、この本屋には、また行きたいと思ってしまうし、行けばやっぱり荷物が増えてしまう。

この本は、Titleという本屋を始めた辻村さんの話である。リブロという大型書店でどんなふうに働いてきたか、そして、小さな街の本屋を作るにあたって、どんなことをしたか、が書かれている。

先日、西荻窪の新刊書店と古書店と旅本専門店の店主が語り合うというイベントを聞きに行った。西荻窪の本屋の栄枯盛衰が聞けて、なかなか楽しかった。本屋という商売は、儲かる儲からないではなく、本屋をやっているということを楽しめなければやっていけないものだなあ、とつくづく思った。彼らの話の端々に、このTitleの店名が出てきた。新しい試み、面白い書棚の作り、ネットでの広報活動など、学ぶべき点が多くあると彼らも口々に言っていた。

最近は読みたい本を書評で見つけ、図書館のサイトで検索し、PCで予約し、メールを受け取って本を取りに行くというサイクルができている。本屋の書棚を薄ぼんやりと眺める時間なんてめったにない。

Titleは小さな本屋で、並んでいる本の数も極めて少ないのだが、「おっ!」と思う本との出会いがある。「ヨレヨレ」「へろへろ」とは、ここでなければ出会わなかっただろう。店主が売りたい本が店の並びを見れば、ちゃんと伝わってくる書棚である。ご近所の谷川俊太郎さんも、時々出没されるらしい。

本自体は地味であったが、またTitleに行って本を眺めたいな、と思える本であった。もし、行ってみたいな、と思った人がいたとしても、「あの話題になった本屋」の前で写真だけ取って、インスタにあげて喜んで帰る、みたいなことだけはしないでほしいな。ちゃんと、書棚を見て、好きな本を見つけてほしい。

2017/7/30