海賊とよばれた男

海賊とよばれた男

2021年7月24日

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「海賊とよばれた男」百田尚樹 講談社

 

娘からのおすすめ本。2013年の本屋大賞。出光興産の創始者をモデルにした物語。娘は、主人公の国岡鐵造を「かっこいい・・・」と言い、出光に就職したい、とまで言いやがった。でも、転勤がありそうだし、大変そうだからやめる、とすぐに翻意したけどね。
 
上下巻の読み応えある本だが、この度、たまたま四日間ほど、リゾートというか、上げ膳据え膳でベッドに寝転がっているだけの生活を余儀なくされたので、その間にゆっくり読み切ることができた。
 
娘がカッコいい、というのもよくわかる。「勤勉」「質素」「人のために尽くす」を貫き、社員を家族と思い、一人も馘首せず、出来の悪い社員も見捨てない。正しいと思ったことはどんな障害があってもやり通す。百田さんの筆の力も素晴らしく、国岡鐵造という男はすごさ、かっこよさが全編を通して描き上げられている。
 
だけどね。
やっぱりこの人は古いタイプの経営者だよね、とも同時に思う。古き良き日本の象徴みたいな人でもある。
 
本当は、この人の下にいるとすごく辛いこともあったかもしれないよね。タンクの底に潜って石油を救い集めても一人も文句も言わなかった社員さんたち。本当は辛くて嫌でしょうがなかったのかもしれないじゃない。
 
子どもができないからと自分から身を引いたらしい最初の奥さん。国岡鐵造は死ぬ間際まで彼女を忘れなかったそうだけれど、本当はすごくつらい思いをさせられたのかもしれないじゃない。
 
石油を港におろして一週間も立たずに、また航海に出ていく社員たちだって、本当は家族と過ごす時間が欲しかったかもしれないじゃない。
 
そういう本当のこと、人間の怠けたかったり、良い思いをしたかったり、のんびりしたかったり、自分の時間を楽しみたかったりする感情をすべて切り落として描かれたこの物語を読むと、なんだかちょっと疲れてしまう。こんなふうに会社に、社長にすべてを捧げる人生って疲れるよなあ、と思ってしまう。私は怠け者。
 
でも、読み応えのある、面白い物語だった。

2014/2/9