独立国家のつくりかた

独立国家のつくりかた

2021年7月24日

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「独立国家のつくりかた」 坂口恭平 講談社現代新書

職業は何だかわからないけれど、写真家であり建築家であり、芸術家であり、作家でもあるらしい作者が、原発事故後、逃げるべきだと知りながら、国民を逃がせない、知らせない、言わない政府はもはや政府ではなく、日本は今や無政府状態だと判断し、新政府を樹立した。内乱罪に引っかからないために、新政府活動を「芸術」と呼ぶことにしたが。

3月15日から、あらゆるつてをたどって、福島の人々を避難させるように呼びかけたのに、権力もお金もある大人たちは動かなかった。知り合いの国会議員は、すぐに家族を海外に避難させていたという。でありながら、公には避難行動について一言も発言しなかった。筆者は、そこに絶望したのである。

・・・というのはこの本の主眼なんだろうか。
私が読んでいて一番面白かったのは、筆者の子供時代の冒険の話であり、子供の頃から持ち続けている疑問の話だ。

この本は、前半が素晴らしく面白い。彼が街で出会ったゼロ円生活者たちのエネルギーの作り方、自家用車を「公園」化している人の話、都市を自宅化する話(公園は庭、図書館は書斎・・・)などは、ワクワクして読むことができた。

しかし、後半になると、一気につまらなくなる。なぜだ?そこからさきは、彼の思想、理想、哲学が論じられるのだが、それが実につまらない。うーむ。この落差は、なに?

こういう独立国家を作る試みは、確かに面白い。しかし、気をつけて。一歩間違うと、ナントカ省をいくつも作り上げて、国家を我が物にしようとした、あの宗教みたいになっちゃうからね。後半がつまらなかったのは、そういう危うい空気がどこかにあったからなのだろうか。

まあ、だとしても、前半の勢いはなかなか素晴らしい本でありました。

2012/8/24