猿の見る夢

猿の見る夢

2021年7月24日

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「猿の見る夢」桐野夏生 講談社

 

主人公は五十代半ばの男性。そこそこの社会的地位と経済的裏付けがあり、家庭があり、長く続いた愛人もおり、さらに目をつけた若い女性もいれば、次期社長の地位をちょっと狙ってみるような野心もある。まあ、男としてはほどほどじゃないか、という感じである。この男の愚かしさ、わからなさが、周囲の人間の様々な欲望と絡まって暴かれていく。こういう男、いるよなーと思うし、本人は絶対自分の愚かしさに、最後まで行かないと気づかないんだよなーとつくづく思う。似たような人、何人も知ってるわ。
 
しかし、桐野夏生は恐ろしい。小さな事実を積み重ねて、どんどん男を追い込んでいく。本人は,いつも自覚なしに能天気だ。正しく賢く振る舞っていると思い込んでいる。人は、自分なりの理屈で生きているからね。それがどんなに身勝手かなんて気づかない。
 
ラストが恐ろしい。いや、恐ろしいと思わない人もいるのかもしれないが、私には恐ろしかった、いきなりはしごを外されたみたいで。
 
男と女の間には深くて暗い川があるのかなあ、なんて野坂昭如を思い出す。川があっても、ちゃんとそこを漕ぎ渡れる男だっているんだけどな。

2018/10/11